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休み_2
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淀んだ空気に包まれて息が浅くなる。
悪い傾向だ。深呼吸をして落ち着かないと。
…
そう思ってはいるけど、気道に空気が入っていかない。
焦った気持ちの隙間から影がささやいてくる。
_逃げ切れると思ってた訳じゃないんだろ?あきらめろよ。どうせいつか連れ戻される。
早いか遅いかそれだけだ_
携帯の番号が知られたって事は何らかの情報が漏れたって事だ。
アノヒトの番号は、”もしも”かかってきてしまっても、うっかり電話に出たりしないように登録してあった。
実家を出て12年。携帯の番号を突き止められたのはこれで何回目だろう。
東京にいる事はもうばれている。
その後すぐに番号を変更しては突き止められて。
最後に変更してから数年は経っている。
どうして今更。
どうして今。
少し前向きになれる気がしていたのに
生きているのも悪くないかもしれない。なんて思えそうだったのに。
_そんな甘い考えもつなんて、学習能力ってものがオマエにはないんだな_
確かに。
連れ戻された時にこんな、ふわふわした思考回路と、理由もなく他人に優しくしてもらった経験は邪魔になる。
もう子供じゃないから言いなりになるような事はなくても、あの場所にいたらそれだけで蝕まれるような予感がする。
力でも頭の良さでもアノヒトに勝てる事なんて何もない。
オマエは犯罪者だと言いくるめられて言い返す事もできずに敗北だろう。
争いたくないから、戻りたくないから逃げていた。
捜さないで欲しいと切実に願っていた。
でもそれは叶わなかったみたいだ。
今度こそ居場所は特定されたかもしれなくて。
いつ、アノヒトがやってきてもおかしくない。
残念。もうおしまい。
幸せな夢。
これが僕の一生分だったのかな。
それともこれが、優也さんに触れるという大罪を犯した罰かもしれない。
体が水を吸ったみたいに重くて少しでも眠りたいけど、目が閉じられない。
さっきまでこの部屋は、こんなに真っ暗じゃなかったはずだ。
熱が上がったんだろうか。寒くて体が痛い。
痛みを和らげたくて体をまるめる。
痛くて痛くて吐き気がする。
こんなに寒いのにじっとり汗をかいた自分の肌が気持ち悪くていてもたってもいられなくなった。
この汚い体がここにあったら優也さんが休めない。
ヨロヨロと体を起こしてベッドから降りる。
シャワーを貸してもらいたいけど、動けるだろうか。何とか扉の方へ向かうとラグに足をとられて転んでしまった。
「愁!」
物音に駆けつけてきた優也さんが手を差し出してくれた。
「だ、大丈夫です。あの、シャワー貸してもらえませんか?」
その手が、見えなかったフリをして笑顔をつくる。
「…。今、湯を張るからちょっと待ってろ。」
有無を言わせない口調で言って、止める間もなく部屋の外へ出て行く。
優也さんは、何かに気付いたんだろうか。
険しい顔が悲しく見えた。
生まれて初めて告白なんかして、浮かれていた。
幸せに届きそうな気がしてた。
秘書の話は断ろう。
居場所を特定されていれば、いずれ続けられなくなってしまう。
そう。
逃げ切れるなんて思ってない。でも逃げなければ…
捕まれば今度こそ…
ペタリとラグに座り込んで膝に額を擦り付ける。
小さく丸まってこのまま息が止まればいい。
…
シャワーを浴びたら帰ろう。最低限の荷物を持って、この地域を出よう。
まだ間に合うかもしれない。
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