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暗い夜 愁_3
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見つめる視線の先に優也さんがいて
僕が力を入れるままに手を貸してくれている。
ここにいる。
優也さんと一緒にいる。
それだけで、満たされた気がした。
ぎゅっと目を閉じたら、唇に暖かい感触が触れた。
目を開けなくても、それが優也さんの唇だってわかってる。
幸せで、幸せすぎて感情がついていかない。
閉じているはずなの目尻から涙が流れた。
「俺には愁が必要だ。」
シャワーをとめて体を抱き寄せられた。
「愁が大事にしないなら、愁の命は俺が預かる。これから先、俺の判断なしでどうこうするのは許さない。選択肢は、俺と一緒に生きる事だけだ。」
「…一緒に」
その言葉を確認しようと目を開く。
鼻先をこすりつけるみたいにぶつけられて黒い瞳が目の前に迫っている。
いつの間にか力が抜けた僕の両手は優也さんに捕まっていた。
「生きていかなきゃ、だめ、でしょうか。」
幸せな気持ちのまま、最後を迎えたいのに。
まだ最後の時にはならないんだろうか。
体の水分が全部涙になっているのか、涙腺が壊れているのか、涙が止められない。
目を開いたはずなのに優也さんの表情がどんどん見えなくなる。
「要らなくなったら責任もってちゃんと殺してやる。その時がくるまで死ぬのはあきらめろ。」
死ぬ事を、あきらめる…
そんな事できるだろうか。
いつも死ぬ事ばかり考えていたような気がする。
死ぬ事が唯一僕にできる事だと知っているから。
そうすれば苦しい事から、過去の記憶を薄めるためだけに時間を消費する毎日から解放される。
生きていくのは辛い事ばかりだから。
それなのに…
「本当ですか?いらなくなったら…」
気付けば情けないくらい強くその体にしがみついていた。
生きていたくない。でも死にたくない。
こんな男の相手は僕だったら絶対にゴメンだ。
「約束する。でも、それには条件がある。」
「条件…?」
お湯をためている途中のバスタブに向かい合わせで座らせてもらう。
涙を拭われて顔がはっきり見えるようになる。
「そうだ。その時がくるまで俺から離れない事。それが条件だ。誓えるか?」
ゆっくり、噛み締めるように言われた言葉を頭の中で繰り返す。
その時がくるまで、離れない事。
その時がくるまでは一緒にいられるって事…
「側にいて、いいんですか?」
その言葉に優也さんは困った顔をする。
「俺が命を預かってるんだ。最後まで一緒にいるに決まってる。殺して欲しいなら離れるな。」
死ぬ事を望んでいるのに自分では死ねない。
そんな情けない自分を、自分で憎むほど大嫌いで。
それなのに数日前に会った人にすがって生きて行こうなんて。
僕は甘いんだろうか。
答えを促すように両手で頬を挟まれる。
黒い煌めく瞳に吸い込まれていって、体の奥にズシンと何かが落ちてきた。
それは優也さんの両手から伝わる熱に似てる。
僕が欲しかった何か…
「誓え、ます。優也さんから離れないです。」
「それが一生でも?」
そう言って笑う優也さんは子供みたいな顔をしていた。
「一生続く気持ちなんてあるわけないです。」
「そんな事聞いてない。一生かかったとしても悪く思うなよ?」
”一生”なんてあり得ないけど、それが本当になったらどんなに幸せな事だろう。
魅了されたみたいに目が離せなくて、視線をあわせたまま頷く。
そのまま抱き寄せられた体温に全身を委ねる。
この優しさは毒かもしれない。
甘くて、指ですくうと、とろりと溢れる。
この人しか見えなくなる。
こうやって、夢を見続けさせてくれる。
癖になって抜けられなくなる。
僕はもう、とっくに絡めとられて中毒になっているのかもしれない。
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