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真夜中の_4
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鞄を開けてすぐ目に飛び込んできたA4サイズの茶封筒。
すかさず取り出して優也さんと反対方面に歩きながら書類を取り出す。
改めて読みたくもない生い立ち、小、中学校、部活動に実家の敷地、近所の評判に現在の状況。
記憶にないような、麻疹の記録や初恋の相手、マラソン大会の順位。
高校名、転々とした都内の住所、いくつも掛け持ちしたアルバイト先。
先週の事に至ってはコンビニに寄った時間までわかっている。
こうやって調べられても母親については行方不明のまま…。
夏彦にされていた事も僕の知られたくない期間についても何も書かれていない。
空白の期間があり、調査を妨害する動きがある。と締めくくられている。
これって怪しい人物って事になるんじゃ…
「無断で調べたのは悪かったと思ってる。秘書にするには必要な手順なんだ。俺が調べたかった訳じゃない。」
仏頂面のまま僕から書類を奪おうとする手が伸びてくるのを小柄な身長を活かして避ける。
読み飛ばしていくと、盛り場でホテルに行った相手から割り出された好みのタイプ。
身長180cm、細身で筋肉質、二重瞼で、肉付きのいい唇、甘やかしてくれる年上。
ご丁寧に図解してあるこの似顔絵が、奏介さんに似ていなくはない、かな。
それで、こんなに怒って
…怒っていたのはこれが原因?
これって、つまり。
「好みのタイプ…確かに似てますね。それで僕が好きなのは奏介さんだと?」
優也さんを目で捜すと、居心地悪そうにしている。
「そうなんだろう?短期間であんなに懐いているんだから」
あんなに怒っていた優也さんが、自信無さげに言う。
その言い方は拗ねているようにしか見えなくて。
「…ヤキモチ?」
いたずらをしているように聞いてみる。
「ち、ちがっ、俺は怒って、る」
慌てて書類を奪っていく手を追いかけて、その胸に飛び込んだ。
シャツ越しに聞こえる鼓動に耳を擦り付ける。
「こんな単純な分析に騙されるなんて、会社が心配です。それにさっきは怒ってないって言ったのに、やっぱり怒ってるじゃないですか。」
…
「それは他の人を見てると思ったからですか?教えてください。僕は空気を読むのが苦手なんです」
大きな掌が僕の頭にのせられた。
「…ああ。そうだよ。ヤキモチだ。」
顔を見たかったけど強く抱きしめられて、それは叶わなかった。
「ごめんなさい。気持ちを伝えるのがこんなに難しいとは思いませんでした。」
「同感だ…。」
こんなに近くにいても、もどかしいくらい伝わらない。
伝えたつもりでも納得してもらえない事もある。
当たり前の事なんだけど、忘れていた。
「優也さん。好きです。大好きです。僕を傍に置いてくれますか?」
「逃げられないように鎖で繋いでおく事にするよ。」
そう言ってキスをしてくれた。
暖かい。
本当に暖かい。
「その調査、途中ですか?その程度の事なら聞いてくれれば答えたのに。」
身辺調査なんて、お金をわざわざ使わなくても。
「…空白期間があって探偵がそこを調べようと躍起になってる。」
「…予想はついているでしょう?たぶんその通りですよ。」
話しておくべきなんだろうか。
それを言ったら、そんな汚い僕を傍においてはくれないかもしれない。
「話したくはないだろうし思い出したくもないだろうから勝手に調べさせておくさ。今の愁がここにいるなら、それだけで俺は充分なんだ。」
言わなくてもいいよ。調べればわかるから。
て意味…
何て優しい選択肢。
本人が話すと言っているのに調べると。
調べがついたら…その結果を見たら…
僕はいらなくなるんじゃないだろうか。
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