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記憶_7
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目が覚めたら彼女の姿はどこにもなかった。
焦って体を起こすと、ズキンと腰が痛む。
背後に気配を感じて振り向くと、恐ろしい形相をした父親が入ってきたのが見えた。
「おい、立て」
冷たい声。
ひどく怒って近づいてくる…
バキッ
鳩尾を強く殴られてその場に崩れる。
ドカッドカッ
そのまま背中を足蹴にされて、恐怖で頭を抱える。
夏彦から暴力を振るわれるのは日常茶飯事でも、父親に殴られた事は数えるほどだったのに。
突然どうして…
「カオリが死んだ。オマエのせいだ。オマエが薬の量を変えたせいでっ」
ドカッ、ドカッ、バキッ
「げほっ、げほっ、うぐっ」
髪の毛を掴まれ顔を上げさせられると、父親の目は血走っていた。
「オマエのせいだ。オマエが殺したんだ。」
彼女が死んだ?
そんな…
パンッ
頬を強く叩かれて倒れこむと、馬乗りになって首を絞められた。
気道が狭まって息が出来なくなる。
そうか、彼女がいなくなれば僕は必要なくなる。処分するのが当然か。
逃げて、と願った彼女の意向には添えないけど…
去年までは幸せだった。その時間は二度と戻ってこないのだし、その思い出だけで充分。
むしろこの陰惨な毎日を恐れなくて済むのならその方がいい。
僕は目を閉じて、その瞬間を待った。
「ふんっ、オマエの命なんて何の価値もない。」
首から手が離されて畳に叩き付けられる。
「ゴホッ、ゴホッ…」
毎日殺してくれと頼んでいた彼女の望みは叶えられたのだ。
僕もすぐにそっちに逝ける…
「身支度しておけ。今夜から客をとってもらう。」
その一言に声も出ない程驚いた僕に向かって続けて父親は言った。
「人殺しを養ってやるんだ。それなりに対価が必要だろ。」
ニタリと笑ったその顔は身震いするほど恐ろしかった。
そして気付く。
投げつけられたバスローブのポケットに、あったはずの薬がなくなっている事に。
言いようの無い後味の悪さが襲ってくる。
彼女は知っていた。
ここに余剰分の薬が入っていたのを。
そしてきっと、それを投与量以上に飲めば生死に関わる事も…
昨日、僕に魔が差した瞬間があった事も…
_僕が殺した。
助けられたかもしれない、実の母親を…
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