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自宅で
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十一 自宅で
帰ってみると、羅音はいなかった。僕は拍子抜けした。椰子が、羅音も心配してるって言ったから、とんできて飛びついてくれるかと思ったのに。ガルデみたいに、「お帰り」って言って、ハグしてほしかったのに。
夜になって羅音が帰ってきたらしかった。バスルームでシャワーを浴びていると、居間で物音がした。僕が出て行って見ると、羅音は、僕の姿を見て、
「杏、帰ってたの?」
と相変わらず、心ここにあらずの口ぶりだった。
それでも、羅音の部屋で、僕と二人きりになると羅音は、
「昨夜、どこに行ってたの?」
と詮索してきた。
「ガルデのところだよ。シアンの具合が悪くて。ほんとだよ。椰子だって、知ってるよ」
「ふうん」
半信半疑の羅音に、僕はすかさず返した。
「羅音の方は、昨夜何してたの?」
「何って、別に。普段といっしょだよ」
羅音は目を逸らして答えた。
「ああ、椰子と二人きりで、か」
「何だよ、それ」
「だって、そうじゃないか。いつも」
「杏の、やきもち焼き」
「ああ、どうして羅音は、そうなのかな。ガルデと全然違うな」
「ガルデがどうしたって」
羅音は眉をきっと上げた。
「どうもしやしないよ。ただ、ガルデだったら、もうちょっと優しくしてくれると思っただけ」
「へーえ、ガルデに優しくしてもらったんだ?」
「椰子ほどではないんじゃない?」
「そんなことしたの?」
「そんなことって、羅音、椰子とどんなことしたんだよ」
「杏こそ、ガルデと何かしたんだな?」
「ああ、したよ」
「何を」
「犬ごっこ」
「ほんと?」
羅音は、急に興味を示したように、身を乗り出してきた。
「ばかだな、羅音って。本当に、そういうエッチなことにしか興味ないんだな」
僕は、ここぞとばかり、思いっきり軽蔑してやった。
「不愉快だ!」
「ふん、何、格好つけてるの? ああ、いやになっちゃう」
「こっちこそ。杏のこと心配して損した」
僕は少しどきっとした。
「僕のこと心配した?」
「あたりまえじゃないか。黙ってどこかに行ったまま、帰って来ないんだもの。一晩中帰ってこないなんて、今までなかったからね。一晩中どころか、昼間だって、そんなに一人で出かけたりしないのに。さらわれたか、事故にあったか、と思って、胸がつぶれそうだったんだから。必死で街中、歩きまわって探したよ、椰子と」
僕は、羅音の気持ちが伝わってきて、胸が熱くなったけれど、さっきまで腹を立てていたものだから、おいそれと感動なんてしてやるもんか、と思って、胸にせまってくるものを抑えて、我慢した。そうして口から出たのは、皮肉な言葉だけだった。
「椰子と、ですか」
「そうだよ、二人がかりでってことだよ。悪い? 僕は、杏みたいに、夜遅く、一人で飛び出したりなんか、しないからね」
「ああ、そうだね。夜じゃなくて、昼間から変なことしてるからでしょ? 羅音はいつも誰かといっしょでいいよね。従者がいるご身分でいいね。椰子がいなければ、あの紳士と……」
自分で言いかけておいて、僕は羅音の顔色をうかがった。羅音は何も言わなかった。僕はあらためて聞いた。
「羅音、まさかだけど、あの紳士とも、してるの?」
「何を」
「こういうこと」
僕は羅音の頬にキスした。
「それくらいするだろう、普通に」
「では、これは?」
僕は、羅音に熱烈キスをした。
そのまま、ベッドになだれ込んで、翌朝椰子に首根っこをつかまれて、引きずり起こされるまで僕は寝ていた。
「しまった、眠ってしまった……」
ベッドは既に、もぬけの殻だった。
顔を洗って食卓につくと、羅音がいた。どこかにいなくなってしまってはいなかった。僕は、ほっとした。
「お早う」
羅音はウサギみたいに、むしゃむしゃ口いっぱいに青い葉っぱを詰め込んで、サラダを食べていた。
「おはよう……僕、昨夜途中で眠ってしまったの?」
僕は、羅音に小さな声で尋ねた。椰子が咳払いした。羅音がちらっと椰子を見てから僕に言った。
「杏、夜中に一人で出かけたらいけないよ」
僕は抗議した。
「ずるいよ、僕ばかり注意されるなんて。羅音なんて、昼間から……」
僕は、言いかけて、周りの雰囲気に圧されて、またやめてしまった。
夕方、ガルデから電話がかかってきた。僕が出かけようとすると、羅音に引き止められた。
「夜中に一人で行くなっていっただろう?」
「夜中じゃないよ」
「帰ってくるのは夜中だ」
羅音は決め付けた。
「でも、シアンが一人になるから」
「シアンがどうかしたの?」
僕は羅音にわけを話した。
階段を上がると、ガルデがドアを開けた。
「おや、羅音も来てくれたのか?」
ガルデは嬉しそうに、とびきりの笑顔を見せた。僕は、羅音とガルデのハグが長すぎる、とやきもきした。
ガルデは仕事に出かけた。
シアンはベッドに寝ていた。枕元には手をつけていないパンとスープがあった。シアンは、僕たちを見ても、何も言わなかった。
シアンが目を瞑っているので、僕もシアンの枕元で椅子に座って目を閉じていたら、いつのまにかシアンのベッドの端に頭をのせて座ったまま眠っていた。
目を覚ますと、シアンの片脚を、羅音が抱えていた。羅音は、シアンの足に、熱心に顔を近付けていた。
「羅音、何やってるの!」
僕は、慌てて立ち上がった。
「だめだよ。シアンには、休養が必要なんだ」
ガルデが言っていたことを、僕はそのまま言った。
羅音は顔を上げてシアンを振り返った。シアンの爪が着色されていた。シアンは黙って手を伸ばした。羅音は、その手を握って尋ねた。
「こっちも?」
シアンは頷いた。
「気分はどう?」
僕はシアンの体調を気遣ったつもりだった。シアンは小首をかしげてしばらく考える風にしてから、ささやくような声で言った。
「爪が、冷たい感じ。気持ちいい……」
「気持ちいい?」
僕は、舌がひりつくような感じを覚えた。
「ねえ、僕にもして」
羅音は手をとめて僕を見た。
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