アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
椰子と僕
-
十二 椰子と僕
「杏さん、その手……」
朝食の給仕をしている椰子が、僕の爪を見咎めた。
「羅音が、勝手に真紅に塗ったんだ」
僕、もっと優しい色がよかったのに。
「染められていく一方ですね」
椰子は評した。
椰子は、羅音の家、桜園家の元小作人の家の息子で父親がいなかったのを、見目がよく才気もあったので、中卒で羅音の従者として雇い入れられたものらしかった。ちょうど羅音が小学校に入学したころらしい。とすると、僕らより九歳年上ということになるので、今は二十四歳くらいなのだろう。僕が桜園家に来たのは、十歳くらいだったので、椰子は、僕より三年くらい前から桜園家にいたわけだ。そのせいで、椰子が、僕を新参者の下っ端みたいに扱うのが、僕は気に入らなかった。
僕の祖母は羅音の祖父の側妻だったらしいが、その間に生まれた父は、ちゃんと認知されていたので、僕にとっても羅音の祖父は祖父なのだ。羅音の祖父には、羅音の母の上に、息子が二人いたのだが、二人とも軍人になって戦死していた。だから、羅音の祖父にとって、僕の父は、唯一生き残った息子ということで、大事にされたらしい。その縁あって、僕も、桜園家にひきとられ厚遇されたのだ。僕は、僕だって、羅音と同格なんだ、と人にばかにされないように気を張って生きてきた。羅音の祖母は、一人娘で、少なくともその時点から男系相続ではなかったため、僕の父が唯一の男子であることは、桜園家では重要視されていないようだった。けれども、祖父にとっては、重要なことだったようだ。そんな事情もあって、僕は自分が軽んじられることに、ことさら敏感だったのだ。
もちろん、椰子にだって、主家に対する感謝と同時に、自分の境遇に対しても含めて、鬱屈したものも、あるだろう。だから、ある意味、似たような境遇なのに、厚遇されている僕に対して、皮肉な態度なのかもしれなかった。けれども、そこは、僕だって、負けるわけにはいかなかった。
暑かったので、日中シャワーを浴びたあと、バスタオルにくるまってそのまま自分の部屋の白いソファーに寝転がっていたら、ノックの音が聞こえた。羅音だと思って
「どうぞ」
と返事をしたら、椰子だった。椰子は郵便物をテーブルに置いたあとも、まだ立っていた。
「何? 用がないなら早く出てってよ」
「ペディキュアまでなさっているんですね」
椰子は僕の足を見下ろして言った。
「だから、これは羅音が勝手に塗ったって言っただろう」
「卑猥ですね」
椰子はにこりともせずに言った。
「あんた失礼じゃないか、羅音の趣味に対して」
僕は卑猥などと言われた恥ずかしさに頬が熱くなりながら言った。
「単なる私の感想です」
「あんたの感想なんか聞いてないよ」
言いながら僕の胸は上下に動いていた。なぜだか勝手に胸が高鳴ってきた。
「ところで、杏さんは、なぜ裸なんですか」
「大きなお世話だろ」
いやにどきどきするのは、腹が立っているからだよね? 僕は、気づかれないようにバスタオルの下に手を這わせ股間を確かめた。
「何をなさっているんですか」
「え」
手を止めた。
「街中で」
僕は固まった。
「大丈夫。羅音さんには秘密にしておいてあげましょう」
椰子は腰をかがめて、僕にうなずいて見せた。
「何のことかな?」
僕はそらとぼけた。僕は、バスタオルの中に縮こまりながら椰子を避けようとした。
「いいですか?」
椰子は片膝をついて僕の顔をじっと見た。
「汚い路地に這いつくばって不特定多数の不良少年と淫猥な行為にふけるなんて、危険すぎます」
僕は青くなった。なんで知ってるんだ? 見られてた?
「もう二度と、あんなまねはしないと約束してください」
「何のことかわからないけど」
「しらばくれるのは、かまいませんけれど、私には監督責任がありますので」
椰子はすっと立ち上がって出て行った。
案外あっさり椰子が引き下がったことに、僕は拍子抜けした。心臓の強い鼓動はおさまらず、どきどきして耳までほてっていた。ああ、ばれていたんだ。いつ見られたんだろう。路地にいたとき、僕は夢中だったから。
「はあっ」
思い出して僕はバスタオルを押さえた。あの刺激が忘れられない。だって、あれから二日も何もしてないんだもの。もう一回激しくしたい。何かもっといやらしいこと。お尻に何かいれて、這いつくばって。今夜こそ、羅音に頼んでみよう。犬ごっこって言ったら、興味しんしんだったから、きっと誘いにのるに違いない。でも、僕はガルデの犬だからなあ。そうだ、羅音と二人で犬みたいに舐めあうのでもいいな。ああ、もう何でもいいから、早くしたいなあ。
羅音は朝からずっといなくて、まだ帰ってこない。僕は、いくども玄関の方へいってみては、羅音がいつ帰ってくるかと待ちんでいた。
椰子が、ダイニングでカトラリーを並べている。
「夕食か」
僕は溜息をついた。
「僕、いらない」
椰子は手を止めて顔を上げた。
「お加減でもよくないのですか」
「そうじゃないけど」
僕は部屋にひきこもった。羅音がいないと、つまらないな。待ってるときに限って帰ってこないんだから。
部屋がノックされた。僕は、羅音が帰ってきたと思って、ソファから、はね起きた。
「本当に召し上がらなくていいんですか?」
「なんだ、椰子か」
僕は、がっかりした。
「軽い物だけでもと思ってお持ちしましたが」
椰子はワゴンを僕の部屋に引き入れて、小さな丸テーブルの近くまで寄せた。
「そんなこと言って、また僕に、手を出そうっていう魂胆なんじゃないの」
僕は、やけになって、この際、こっちから言ってやった。
「期待しているんですか?」
椰子は、僕の攻撃を、さらりと受け流した。
「まさか」
と否定はしてみたものの、椰子が意外にのってこないことに、内心、安心したような、失望したような宙ぶらりんな気持ちになった。
「ひょっとして我慢できなくなっているんでしょう。しかし、あいにくと羅音さんは、いない」
椰子が、僕を見て、にやりと笑った。うわっ、やっぱりこいつ、危険。
「羅音はきっと帰ってくるよ」
図星を指されてどぎまぎしながら言った。
「帰ってきたとしても、多分お疲れです」
「何でそんなことわかるんだよ?」
「あの紳士の所へお出かけだからです」
僕はどきりとした。努めて冷静さを装って
「はあ? どうしてあの男の所から帰ってくると、疲れてるわけ?」
と探りをいれた。椰子は直接答えず、
「とにかく今夜は、羅音さんに期待しても無駄ですよ」
とだけ言った。確かに前も、そうだった。羅音は、僕の期待に応えてくれなかった。
「杏さん、前から言っているように、自分の気持ちに対して、もっと素直になったらいかがですか?」
椰子は僕に忠告するような口ぶりで言った。
「素直に言って、あんたといる今の状況は危険」
むかついた僕は言ってやった。
「危険? よく考えてみてください。街中で全裸になって四つんばいで歩くのと、私といるのと、どっちが危険か」
「それは」
僕はまたあの日のことを言われて、恥ずかしさと興奮で、ごくりと唾を飲み込んだ。
「あ、それとも危険なほうがはらはらして、好き、と?」
「そうじゃないよ」
「それなら、危険な状態から、救ってほしいということですか」
「あんたの方が、よっぽど危険だ」
僕は、近づいて、僕の上にかがみこんだ椰子に悪態をつき続ける。
「ええ、私も危険な状態です。そんなに見せ付けられては」
僕は、ボタンをとめずに羽織っただけだったので、すっかりシャツのはだけてしまっていた、自分の胸を見下ろした。
「どこ見てるんだよ」
僕があわてて胸を隠して抗議すると、
「ここ」
椰子は僕の手を退けて、僕の胸を手で触ってきた。
「あっ」
椰子の手が僕の胸や乳首に触れて、僕は、思わず声をあげてしまった。
「待っていたんですね?」
椰子は、僕の胸に置いた手を脇にすべらせて、胸郭をつかみ、両の親指で僕の両乳首を刺激した。
「あっ……あっ! やーん!」
僕は首を左右に振り、後ろに反らした。
「ま、待って。僕、食べたい」
「やっと食欲が出てきましたか」
椰子は身体を放した。案外、簡単に解放されて、僕は少し拍子抜けした。僕の肩はまだ上下に動いていて、それを収められないでいた。椰子はそんな僕を見下ろしながら、仕候していた。
「食べるって言っても、あんたを食べるわけじゃないよ。誤解のないように言っておくけど」
変に大人しい椰子に疑念を感じたので、僕は念を押した。
「あ、やはり、どちらかと言えば私に食べられたい、と」
「違うだろ」
かがみかけた椰子の動作を即座に止めて睨んだ。
「いいから僕に、食べ物、を食べさせてくれ」
椰子は僕の隣にワゴンを寄せて、
「まったく、杏さんは、甘えん坊ですね」
と言った。
「そうじゃないっ」
椰子は頓着しないで、僕にフォークに挿した食べ物を向けて
「はい、杏さん、あーん」
「からかうのもいいかげんにしてよ」
僕は真っ赤になって手渡されてあったナプキンを、椰子に投げつけた。
「左様ですか。こういうのはあまりお好きじゃない、と」
「もういい、僕、やっぱ食べない、あんたにつきあってられないや」
僕は白いソファーに、どさんと寝転がった。
椰子は言った。
「せっかく御用意したのに」
「なら、あんたが食べれば」
「では、お言葉に甘えて」
椰子は皿を手に取り、僕に近づいた。僕は警戒して彼の行動を見張った。
「何でしょうか? 私の食べるのが、それほど珍しいとでも」
「ああ、確かに」
椰子とは、普段、いっしょに食事をしていなかった。
「それでは、私の食べ方をお見せしましょう」
椰子は僕の側にひざまずくと、冷やっとしたものを、仰向けに寝ている僕の胸の中央に置いた。
「わっ」
「動かないで」
厳しい声で言われたので僕は、ぐっと止まった。
「少しでも動いたらシャツに染みができます」
「いやだよ、これお気に入りのシャツなのに」
「だから大人しくなさい」
「あんた、何、乗せたんだよ」
椰子は、胸に乗せたものを指でつまんで僕の口に入れた。
「トマトだな?」
「当たりです」
「ってか、何やってるんだよ!」
僕は起き上がろうとした。が、椰子に押さえつけられた。
「動かないで下さい。汁が垂れます」
と言うが早いか、椰子の頭が沈んで、僕の胸に湿った感触がした。
「んふっ……何をした」
「目が潤んでいますよ」
「ああー」
僕は、もうこの状況に頭がおかしくなりそうで、頭を振って脚をばたばたさせた。
「もうっ、嫌っ」
「わかりました。焦らしてごめんなさい」
椰子は今度は、皿から、白い物体を僕の胸に置いた。僕は息を詰めて、それを見る。ソースが左右に垂れるので、その都度、椰子が指ですくい、舐めとっていた。
「ああっ、僕にも食べさせてよ」
何でもいいから気をまぎらわせなければ、身体を動かしてしまいそうだ。
椰子の指が僕の唇を割った。僕は椰子の指にまとわりついたソースを舌で舐めとった。気を落ち着かせようとしたのに、余計高ぶってきてしまった。椰子の指を舐めるなんて……。椰子の指が僕の唇をなぞった。
「はうっ」
僕は、身体をかたくした。
「余計なことするなよ」
僕は、息をはぁはぁさせて、言った。
「その白いのは?」
僕が尋ねると、椰子は指でつかんで僕の口に入れた。
「何で、mozzarellaなのよ! ちゃんと国の設定を考えてる?」
「設定? 何を言っているのかわかりませんが、私は杏さんのイメージにお似合いだと思ってわざわざ選ばせたんですよ」
「嘘っぽいな。いいかげんに、場当たりでしてるんじゃないの?」
「ひどいですね、周到に計画された私の配慮を」
「あんた計画犯かい?」
「あなたが水に浸かる姿は、まさに真っ白でフレッシュなmozzarella」
「いつ僕の水に浸かる姿を見たのよ」
「いや、この間、バスルームに新しいバスローブをお持ちした時に」
「のぞいたの!?」
「いえ、まさか扉が全開とは知らずに」
「のぞいたんじゃないか」
「見えてしまっただけなのですが。見てしまったことについては謝ります、申し訳ございません」
「もう、これからは気をつけてよね」
「で、話を元に戻すと、mozzarellaと杏さんの類似性でしたね。淡白でくせのない味わい。ほのかに甘い乳のにおい。弾力のある歯ごたえ。熱すると糸を引く」
「どうでもいいけど、何? その最後の、熱すると糸を引くって」
椰子は、ふふっと笑っただけで、僕の質問を無視して続けた。
「表面は柔らかく、いつもシャツを着ていない」
「ちゃんと着てるよ」
「羅音さんがトマトなら、私はバジリコでかまいません」
「何言ってるの、この人」
「insalataの話です」
「あ、そう。ならいいけど。だいたい僕をチーズにたとえるっていうのが気に入らないよ」
「私としては、賞賛しているつもりだったのですが」
椰子は肩を落とした。
「なかなかうまくいかないものですね。そうですよね、杏さんは果物ですものね。ご不満も、もっともです」
どうやら少しばかりへこましてしまったようだが、すぐにまた気を取り直したらしく、
「では、デザートにしましょう」
いそいそと動きまわった。
「省略しすぎ」
「おや、フルコースをご所望だったんですか? それなら急いで用意させますが」
「いい、いらないよ」
僕は慌てて否定した。
椰子は僕の胸をひんやりとしたリネンで拭った。
「何かすーすーするよ」
「アルコールのせいかもしれませんね」
「僕、アルコールに弱いんだからやめてよ。皮膚が赤くなっちゃうよ」
「ほんのり赤くなるのもいいじゃないですか」
「いいと思うのは、見ているあんたの感想だろ? 僕、どうでもいいから早くしてよ」
僕、焦れているんだろうか。
「杏のコンポートです」
「ベタだなあ」
僕は悪態をつきながらも、椰子に名前を呼び捨てされたような気がして、ドキッとした。それに柔らかく煮た杏の、ひんやりと僕の胸にはりつく感触は心地よく、またいやらしく、こんな変な遊びに興じていることの照れを再び意識させた。
「mozzarellaでは不適切とのご指摘を受けまして、この度は当地のfromage blancを添えてみました」
「もったいぶらなくたって、それ朝食べているじゃない」
とは言ったものの、柔らかなチーズが胸に置かれると、とろりとした、つめたい感触に、思わず
「……あ」
と声が出てしまった。
銀のスプーンの背が僕の乳首に触れて、僕は詰めていた息を漏らした。
「はぁっ……」
僕は、両手で自分の腿をつかんで耐えた。目をつぶった僕の、唇に銀の匙が触れた。僕はあえぐように口を開けた。なめらかな舌ざわり。僕は口を開けて声なく喘いだ。
「もう、もう我慢できないよ。お願い、fromage全部舐めとって」
椰子は黙って僕の胸の上に覆いかぶさると、唇を開き、すすりとり、舐め取った。僕はその間、息を詰め、身体を固くし、身動きもできずに快感に耐えた。
「お願い、乳首は、舐めないで」
僕は震える声で言った。乳首なんて舐められたら、もう、がまんできなくなってしまう! 椰子のふっと笑う声がかすかにして、僕の胸は再びリネンで清められた。
「もう動いてもいいですよ」
「あー!」
僕は、動きを封じられていた苦しさから解放されて、思い切り身体を動かした。目を開けると、椰子が、片唇を上げながら僕の腰の辺りを見ていた。
「どこを見ているの!」
「いくら我慢していたからって、そんなに急に激しく動かしたら腰を傷めますよ」
「動かしてないよ」
「無意識に、ということですか。まあいいでしょう。片付けます」
椰子は勝手に片付けはじめた。
「待って、まだ何か食べようかな」
「私はもう下がらせていただきますので。あとはお一人でお楽しみください」
「お楽しみって何さ、食べるだけだよ」
こうして、椰子にぎりぎりまで焦らされた僕は、椰子が部屋を出て行ったとたん、部屋のドアに鍵をかけた。下半身の衣服をもぎとり投げ捨てた。床に膝をついて、前を掴む。マニキュアを塗られた十個の果実のような爪が、僕のあそこでうごめく。まるで自分の手ではないみたいだ。
さっき椰子が舐めた胸が、じんじんした。もっと舐めてもらいたかった。僕を舐めて。僕を見て。
「椰子、舐めて、ああっ」
僕は声に出してみた。すると、自分の言ったことに、自分の声に、ひどく興奮した。僕、椰子のこと好きなのかしら。そんなはずはないんだけど。いっそのこと、椰子としてしまいたい。
「椰子、来て、僕のお尻の穴を見て」
僕は次々にいやらしい言葉を口にした。
「ねえ、椰子、僕のいやらしい格好を見て! お尻にいれて!」
僕は興奮した。
「椰子のを飲ませて。咥えたい。お願いだから、椰子のをしゃぶらせて」
気持ちはどんどん高まっていった。
「僕にかけて。お尻にも、口にも。ああ、早く我慢できない」
僕はドアにお尻を向けて、四つんばいになった。喘ぎながら腰を振ってみた。僕はお尻の穴に指を突っ込んで、ドアの方に見せつけながら、激しくイッた。
僕はもう椰子と目を合わせられないと思った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 18