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足りないもの 5
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どうしよう。そればかり考えていたら、井成が俺の手を引いて無言のまま靴箱へと歩み始めた。どうしてこういう時に限って黙り込むんだよ。こういう時こそゲラゲラ笑って「牧野どうしたんだろうな。」って言ってくれたら少しだけ気が紛れるのに。
下駄箱に着くと、漸く俺の手を離してくれた。俺は急いで自分の下駄箱へと向かう。
「日坂。」
突然しゃがみこんだ井成が苦しそうに唸りながら俺を呼んでいた。
「お、おい、どうしたんだよ。」
急いで近寄ると、少しだけ息が荒かった。
「ちょっと、腹が痛ーな。」
「は? ちょっ、立てるか? 保健室まで連れてってやるから、ほれ。」
きつそうな病人に手を差し伸べると、さっきとは違って弱々しい手がすぐさま俺の手を握った。本当はすぐにでも牧野のところへ行きたかった。誤解を解きたかった。だけれども、きつそうな奴を放ってはおけない。
俺よりも若干背の高い井成を俺の肩にもたれさせながら歩く。何だろう、二人三脚みたいだな。保健室は一階にあったため、距離はそんなになかった。
「あれ……」
早朝に来たため、まだ保険医はいなかった。だが、保健室は開けてある。きっと戸締りし忘れたのだろう。保険医にはあとで説明すればいいかと思い、俺はドアを開けた。
人気がなくてヒンヤリとしたそこは、若干アルコールの匂いがする。
ドアから一番近いベッドに井成を座らせる。
「ほら、ここで寝てろよ。保険医には俺が説明しといてやっから。」
目の前の井成はきつそうだった。
「あり、がとうな。」
「おう。」
力なく微笑むその姿を見て、ここに一人井成を置いて教室へ行くということをためらってしまう。
牧野にも後で説明すれば、なんとかなるだろう。
そんな事を考えて、保険医が来るまでの30分間は井成の看病に費やした。
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