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足りないもの 6
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急げ!!
俺は階段を淡々と駆け上がる。
保険医が朝のHRギリギリ前に来たため、俺は今焦っている。保健室は一階。俺の教室は四階。これを後三分で駆け上がりきれなければ、俺は遅刻者扱いだ。冗談じゃない。牧野に出会ってからというもの、毎日無遅刻無欠席だ。それを今となって看病が原因だとしても遅刻扱いとか嫌だ!!
ぜーハーと全速力でかけて行けば、担任と同じタイミングで教室のドアを開いた。これは恐らくセーフだ!!担任は俺をちらりと見たが何もなかったかのようにクラス全員におはようと挨拶をした。俺は急いで自分の席に戻る。そして、恐る恐る牧野の方を見た。すると、牧野もこちらを見ていたらしい。目が合うと、眉間にしわを寄せて窓へと視線を移してしまった。
遅刻はま逃れたが、大きな問題は抱えたままだった。
仕方がない。HRが終わったら、急いで牧野のところへ行って事情を説明しよう。そうすれば、誤解も解けるだろう。
*
「牧野。」
考えていた通り、HR後はすぐさま牧野の席に行った。牧野は俺を見上げた。
「何?」
しかし、返ってきた声はとても不機嫌そうなものだった。
「えっと……さ。朝のこと、何だけど……」
あれ? 自分が思っていた以上にうまく話せないぞ……
焦っていると、下からため息が漏れる音がした。
牧野の目を見れば「聞きたくない。」と冷たく返されてしまう。
聞きたくない? 何だよその態度。少しは話を聞けよ!
俺は少しだけ頭に血が上った。
「俺、牧野を裏切ったりしてねーから。あと、朝は井成を保健室に運んでただけだから……それだけ、だ。」
ちぐはぐな言葉を並べて、しどろもどろ伝える。俺にはそれくらいしかできなかったし、何しろ話を聞こうとしない牧野に対して怒りがこみ上げているのだ。仕方がない。それだけを伝えて、俺はすぐさま自分の席に着いた。
全く、牧野は何を考えているのだろう。
よく、分からない。
そう、俺は牧野の電話番号もメアドも何を考えているのかも、全て分からないのだ。
お前とは大分近づいてきたと思っていたのに、それが気のせいだと気づくのにはそう時間がかからなかった。近いようで遠い。
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