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「用紙後ろまで回ったか?まだ書くなよ」
市の主催する作文コンクールとやらに、小学校全学年上げて参加しようと決まったのは先週くらいだ。
いや、正確には市が近隣の小中学校へ「どうぞ参加してください」ということでわざわざゲドラのプリントされた作文用紙を大量に送ってきた。
この作文コンクールのみのために作られた作文用紙に、子供達の熱狂ぶりはすさまじく、騒ぐ子供たちを鎮めるのに大変だった。
「テーマは『ありがとうの手紙』だ。家族、友人、ペットのことでもいい。みんなが普段感謝していること、人、物に対して自由に書いてほしい。テーマに手紙って入ってはいるが、手紙の形に書かなくても良いからな」
用紙は沢山あるから字数を気にするなよ、と言ってから、子供達は真剣な表情で作文を書き始めた。
字が汚いのを気にしているこう太はちょっと顔をこわばらせながら、それでも一生懸命鉛筆を動かしていた。
静かな教室に鉛筆のカリカリと動く音だけが聞こえて心地いい。
それをボンヤリ聞いているだけなんてしない。ゆっくり机の間を周りながら何を書いていいか悩む子供達にアドバイスをする。
適当に終わらせて遊びだす男子の尻を叩きながら、こういう書き方の方がいいんじゃないか?とか言っていた時だ。
一人の男子に「先生は書かないの?」と聞かれた。
「何言ってるんだ、先生は書かないぞ。書いているお前らを監督しているのだから」
「えー!ずるいー!先生も書きなよぉ!」
「そーだ!そーだ!」
「ホレホレ、なんでも良いから一生懸命書け」
国語の時間を丸々使って生徒達に書かせた作文は、贔屓目に見ても良く書けていたと思う。
職員室に戻り、ざっとだが一人一人のを読み進める。
こう太は石川のハゲへではなく、石川を支えるスタッフへの感謝を綴り、垓はこう太や春幸と言った友人達への感謝、春幸は自分の面倒を見ている祖父母への感謝を綴っていた。
無数の「ありがとう」という文字を見てから余った白紙の作文用紙に目をやる。
「…感謝の手紙、ねぇ」
ポーズを決めるイラストのゲドラにイラつきつつ、白紙の用紙を何枚かカバンに入れてから次の授業に向かった。
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