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「言って、やった」
店内にはすでに酔っ払って真っ赤な顔でグデングデンになっている弐都さんがいた。
彼を挟むように私と華田、石川で座ると結城くんがお通しを出してくれた。
弐都さんはビールを急ピッチで浴びるように飲む。
「言ってやったさ、言ってやったさ、愛しているとなぁ!そしたらどうだ、喜んでくれたよ!あの泣き虫女、またピーピー泣きじゃくりおって!『お父ちゃんのこと私も愛してる』と言った顔にグッと来たので、そろそろ六人目をと…」
「はいはい、良かったねぇ」
早口で捲し立てる弐都さんを御しながら、またワイワイと世間話に興じる。
(ここで発覚したのが、前回石川が嫁に対して愛してると言っていたのだと思ったのだけれど、実はこう太に言っていたのが判明した。『だって!お前らの嫁談義に対抗できるのは息子談義しかねぇと思って!!俺息子命だし!!』と喚いていた)
「火野先生はご結婚されていないのか?」
この中で唯一、私が同性の恋人をいることを知っていない弐都さんからそう質問された。
保護者には石川と華田を除いて教えていないので、普段答えるように「恋人と同棲中です。結婚はまだ考えていません」と言うとふーんと頷いた。
「火野ちゃんは言ったりしないの?愛してるって」
「あぁ、言うよ。つい最近も言ったばかりだ」
「Foooo!」
作文用紙の裏表にビッシリ書かれた颯一の手紙を思い出す。
いきなりの手紙に驚いたけれど嬉しかったこと。
最近やたら感謝の言葉とか言われるから何かあったのかと不安で仕方なかったこと。
もし、私に好きな人が出来たのなら身を引こうと覚悟していたこと。
だけどこの手紙を貰ってそんな気持ち吹き飛んだこと。
俺も愛してる。いつも本当にありがとう。奏真が大好き。
『今日は寝かせないからな!絞りとってやる!!』
そう余白に書かれた通り、その夜はやたらアグレッシブで普段しないようなプレイまでさせてくれた。
それを思い出してニヤついていたら「何よ、気になる!」と石川に大声で尋ねられた。
「…お前の介護は俺がしてやるからな、って言ってある」
「あー…」
「俺らももう四十だもんな…」
「介護とか必要になるのかな…」
「いや!イッシーも垓父もファイヤー先生もまだまだ若いではないか!!」
もちろん、そんなの嘘だ。
手紙には、愛してるやら感謝の言葉やらを綴った。
そして
「どうか、俺と添い遂げて欲しい。一生涯、君だけを幸せにしていくことを誓うよ」
で締めた。
これを書いた時に、脳裏に幼稚園の頃の思い出が蘇った。
『やだぁ!!そーちゃんとけっこんするのー!!そーちゃんがおよめさんじゃなきゃやだー!』
『わかったよぉ。そーまくんのおよめさんになるよぉ』
『うん!!!うれしいなぁ!!あのね!奏真がそーちゃんのこと、ずーっとまもってあげるからね。奏真がそーちゃん、幸せにしてあげるね!』
『へへへへー!ぼく、そーまくんといるだけで幸せだよぉ』
幼い頃の約束を思い出し、何故だか無性に恥ずかしくなる。
こんなの自分でも忘れていたくらいだ、颯一もきっと忘れているはずだ。
今までお互いに好きだと言い合ってはいたけれど、お互いに何処かでこの関係は終わると思っていた。
だけどもう四十年も一緒にいるのだ。終わるはずがない。二人して何で気付かなかったのだろうな。
お互いに口に出さなかった「この先も二人でずっと一緒にいたい」という決意を改めて口にだした。
私はこの四十年間、颯一とずっと一緒にいた。
そしてまたこの先の四十年、五十年、変わらず二人でいるのだ、いや、二人でいたいんだと改めて強く思った。
そう決意をすると、自分の心うちに巣食っていたモヤが晴れていく気がした。
そうボンヤリと思い出に浸っていると颯一からメールが入る。
『まだ帰ってこないのか?|・ω・`)奏真がいてくれないから俺幸せじゃないなぁ。一緒にいてほしいなぁ(キラキラ)』
普段使わないような絵文字やら顔文字満載のメールに少しだけ酔いが覚める。
四十のおっさんが打つようなメールか!?と思いつつも、立ち上がって金を払う用意する。
「何よ、火野ちゃん帰るの?」
「あぁお先に失礼する。同居人がうるさくて…」
そう言ってから、『奏真がいてくれないから幸せじゃないなぁ』ってのはあれか?幼稚園の頃に私が言った戯言のことか?
覚えられていたことに恥ずかしさがこみ上げ、顔を覆いながら足早に店を出る。
店を出てから春の夜の空気を吸い込んで酔を覚ましながら、家で待っている颯一に電話をかけた。
「…もしもし、今から帰るぞ」
『そう、気をつけろよ!ベッドで待ってるからな!!』
「うるさい、早く寝ろ」
久しぶりにくだらない話を電話しながらのんびり帰る。
高校生の頃、ダラダラ喋りながら家路に着く時の気分に似ていて、懐かしい気分になる。
「なぁ、今度マンション見に行くか。新築でいいのがチラシで入っていたんだ」
『あぁ良いな。そろそろ新しいとこに引越したいなぁと思ってたんだ』
「貯金もあるし、日当たりのいい部屋でも買おうか」
『マジで…買っちゃう…?』
嫌か?って尋ねると、電話口のむこうの颯一は嫌じゃないって大声で叫んだ。
そして、「二人の終の棲家を探しに行こう」と泣きそうな声で呟いた。
言うならここしかない、と俺は息を吸い込んだ。
「ずっと二人でいて、俺の最期を看取ってくれ」
渾身の決め台詞だったのに、「それ、高校生の時に聞いたし」と泣き笑いで言われた。
そうだっけか?とすっとぼけつつ、高校生の時の自分たちを思い出しながら帰路についた。
(fin)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ありがとう」も「愛してるも」平気で言えるのに、「ずっと傍にいてください」が言えなかった火野先生の話でした。
先生を出すと、こう太や垓くんの学校の様子も妄想できるから楽しいですヽ(*´∀`)ノ
第三者から見ると、
火野→←←←←長船
って感じで、火野先生が冷めてるように見えますが、実は火野先生は長船さん大好きです。
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