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どうやら頭を打ったショックなのか、俺は他人が考えていることがわかるようになってしまった。何これエスパーか。エスパー中年。
構造とか全くわからないが、俺の頭には何故か他人の声が流れてくる。
それは近くに人がいれば漏れなく流れてくるので、どんなにうっとおしくても、俺には拒む術はなかった。
ちょっと家からアトリエまでの距離を歩く間にも、何人もの人にすれ違う。
楽しそうにお母さんと手をつなぐ小さい子の
【ママだぁいすき】
って心の声に和んだり、
いちゃつくカップルの女の子の方の
【コイツマジうざい。適当に金引っ張ったらバイバイしなきゃ】
って考えに薄ら寒くなったり、
ちょっと危なそうな見た目の奴の
【国家転覆、国家転覆、国家転覆…】
っていうエンドレスな考えにビビって距離を置いたり。
誰だって口からだす言葉と本心は違う。俺だって、いっつも嘘ついてたりする。
だけど改めて、他人は何考えているかわからねぇな、ってつくづく思う。
ニコニコしながら心の中で毒づく。ずっとこのままだと人間不信になりそうだった。
アトリエに着くと、先に来ていた間宮くんと森崎くんが心配したような顔で迎えてくれる。
二人には、昨日上から落ちてきた鉢植えが頭に当たり病院に行ったことを伝えていた。
「先生、無理をなさらないでください。本日は休みに致しましょう」
「へーきへーき。家にいても暇なんだ」
「いやーでも災難でしたねぇ」
「おいこら、心配する口調で頭を叩こうとするな!!」
ペシペシと頭を叩くような仕草をする森崎くんをド突きながら、仕事に取り掛かる。
二人の考えてることも当然のように流れてくるんだけど、
【このあとのスケジュールは…】
【お昼何にしようかな。昨日は買いにいったし…】
って、至極普通な感じだった。
俺をバカにするようなことは考えてないみたいで、ちょっとホッとする。
二人とも口では俺を慕うことを言ってくれるけど、内心どう思っているかはわからない。
もしかしたら、俺に嫌悪感抱いてるかも、と思っていたりもした。
だけど二人ともホントいい子だよなぁ、と安心してから俺は仕事を始める。
久しぶりに水墨画の作品依頼をされたので、今までとは違う構図で麒麟を描くことにした。
依頼人から荒々しい感じでお願いしたい、ということで麒麟にまたがった荒武者みたいなのを描いてみた。
自分で言うのもなんだけど、戦に行く雰囲気が醸し出されてて結構良く描けたと思う。
二人にドヤ顔で見せて見ると、「雰囲気が良いですね。漢詩も情緒が出てて宜しいかと」「今まで麒麟はほのぼの路線だったから、こういうのも有りですね」なんて褒めてくれる。
でも心の声は。
【先生はすごいなぁ】
【先生はすごいなぁ】
【やっぱり先生はすごいなぁ】
【さすが石川先生だなぁ】
口では色々と言葉を飾って褒めてくれるのに対し、心の声は年齢よりも大分幼い言葉で、すごいなぁを連発していた。
その言葉でなんだか、ニコニコしている二人の周りに花が散っているのが見えてきた。
なんだこいつら可愛い。俺のことメチャクチャ慕ってる。
「…今日、夜寿司でも食いにいくか」
「え?いきなりどうなされましたか?」
「俺が奢るよ」
「マジですか!?やったぁ!!」
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