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生きてるよ。
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……あれ。
……何か…頭がぼうっとする…。
…首…痛ぇ…。
…首だげじゃない…あちこち痛ぇ…。
……俺…どうしたんだっけ……。
『菊池!!!』
…あ…そうだ…俺、春夏冬と鉄平と一緒に……鉄平んちに…。
……そんで…そうだ…車に…跳ねられて…そんで……。
…あれ…もしかして俺……生きてる…?
「……英?」
微かに目を開けると、俺はベッドの上にいた。
…俺んちじゃない……病院…?
視線だけ動かすと、ベッドの横に…母さんがいた。
顔中しわくちゃにさせて…目を真っ赤に腫らした…母さんがいた。
「…よかった……気が付いたっ…。」
「……母さん…俺……生きてんの…?」
自分が思っている以上に掠れた声が出た。
「馬鹿ねっ…ちゃんと生きてるわよ…。」
「………そっか……すげぇ……。」
「…2日も目を覚まさなかったんだからっ………ほんとによかった…。」
そう言って母さんは、目に涙を浮かべながら俺の左手を握りしめ……。
……握り…しめて………。
……あれ……。
「そうだ、先生呼びに行ってくるわね。あとゆうちゃんにも電話しないと「母さん…。」
「え?」
母さんが俺の手を放し、立ち上がろうとしたところを、俺は咄嗟に呼び止めた。
「何?」
「……母さん…。」
「…英?」
…気のせい…?
…気のせいなのか…?
……いや、でも……今確かに…。
「……もっかい…。」
「…?」
「………もっかい…手ぇ……握って…。」
「…。」
嫌な予感が伝わったのか、母さんは俺の手を再び握り締めた。
…握り締められてる……はずなのに……。
「……なん…で……。」
「………。」
「…何も……何も…感じない……。」
「息子さんの症状は、片麻痺…別名、半身不随というものです。」
「半身…不随…。」
診察室に呼ばれた玖美と、連絡を受けて仕事を抜けてきた勇次郎は、医者と向かい合った状態で話を聞いていた。
「息子さんの場合、右脳を強く刺激されたのが原因で、左肩から左胸、左脇腹、そして左足が麻痺している状態です。またそれ以外にも、右脳をやられた場合、空間認識に障害が出たり、性格に変化が起こる可能性もあります。」
「性格…?」
「例えば…今までは穏やかな性格だった人間が、急に怒りっぽくなったり、またその逆だったりと…酷い場合は、全く別人のような性格になってしまうというケースもあります。」
「…そんな…。」
玖美と勇次郎は、英の症状が想像していた以上に悪いものだと知り、思わず俯く。
「…それは、治るものなんですか?」
勇次郎は少しの希望を抱きながら、医者に向かって尋ねた。
「リハビリをすれば、身体を動かす事も多少は可能になりますが…今まで通りの生活に戻る事は、非常に難しいかと。」
「…そうですか…。」
そう言った勇次郎の声は、玖美が聞いた事もないくらい…震えていた。
「…英。お前に、言っておかなきゃならないことがある。」
「……うん…。」
病室に戻ってきた親父と母さんは、今まで見たことないくらい、不安とやるせなさに満ちた顔をしていた。
「…お前の身体はな、半身不随って言って、身体の左半分が麻痺しちまってるんだそうだ。だから…今までみたいに、歩いたり、左手で物を持ったりすることが難しくなる。」
「……うん。」
親父は、俺の顔を見ることなく、ずっと俯いていた。
だからか、親父の声が、いつもよりひどく小さく聞こえた。
「…リハビリをすれば、少しはマシになるらしい。可能性としては、リハビリを続ければ一人で歩けるくらいには、回復できるかもしれないんだそうだ。」
「……そっか…。」
……俺…二人をどれだけ泣かせたんだろ…。
親父の後ろに黙って立っていた母さんの目は、さっきよりも真っ赤に腫れていて…。
親父だって、今にも泣きそうな顔して…。
…こんな二人…今まで、見たことない。
…俺が…二人に、こんな顔…させてるんだ。
「……正直…こんなんになったのは…かなりショックだけど………生きてるだけで…丸儲けって言うしさ…。」
「…英。」
俺の言葉に、親父はようやく顔を上げた。
……何で、自分が悪いみたいな…そんな顔するんだよ。
……そんな顔……すんなよ…親父も…母さんも…。
「……ほんとは…今生きてること…信じられないくらいなんだ…。不思議だよ……死んだかと…思ってたのに…。」
…俺は…大丈夫だから…。
「…っ…ほんとに…お前は…っ。」
「!」
親父の手が…俺の頭を撫でる。
…あったかい手が…頭を撫でる。
「……心配かけて…ごめん……。」
……俺……生きてるよ……親父。
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