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Not said "Help"
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side五條
さっきまでの殺気オーラはどこへやら、駆け寄ってきた兵藤は「大丈夫か?」と心配そうに俺の体をしっかりと抱き起こしてくれた。
その眉尻を下げた切ない表情と優しい手つきに今そこで不良達を薙ぎ倒してきたやつと同一人物だとは思えねえ。
「叔父さんの所に行こう」
俺の腰に手を添えて立ち上がるのを手伝ってくれた兵藤の好意を迷わず断った。
「いい」
「良くない」
「こんくらい平気だ。痣にしかなってねェよ」
「怪我を甘く見るな」
ピシャリと戒められ、真剣な眼差しに気圧された。兵藤が助けにきてくれただけで充分すぎるほどありがたいのに、これ以上甘えたくねえ。だってこれじゃあまるで、ヒーローに護られてる弱虫みたいじゃねえか。
「自分で歩ける」
「無理をするな…」
一歩踏み出して不格好によろけた俺の腕を掴んでしっかりと支えてくれる兵藤が頼もしすぎて涙が出そうになった。その時だ、予期もしない声が頭上から降ってきた。涙はすぐに引っ込む。
「こんなに早く片づいちまうとはなァ」
俺達は2人して顔を上げた。
寂れた建物に付いている外階段のてっぺんで、派手な金髪の男が手すりに肘を付いて此方を見下ろしながら笑っていた。
階段をタンタン、と軽快に降りると野郎は手すりを握って身を乗り出しそのまま結構な高さがあるにも関わらず飛び降りて着地を果たした。
そしてズカズカと歩み寄ってくる。
いつから、どのタイミングであそこにいたのかまったく分からないが一部始終を見ていた事には変わりねえ。だがこの現場にいるということは…。
「敦!またてめえかァ!毎度毎度、よくもッ」
「はァ?何のこと?」
そのすました笑顔の何とムカつくことか。頭に一気に血が上るのを感じながら、体の痛みなんて忘れて俺は兵藤から腕を振り解くと憎たらしい幼なじみに詰め寄った。
しかしその行く手を「落ち着け」と前に差し出された竹刀によって遮られる。敦はわざとらしくとぼけた態度で両手をヒラヒラと振った。
「俺はただ五條クンがぼっこぼこにされるって聞いて来ただけでーす」
「うっせぇ!てめえがそそのかしたんだろーがッ」
足元に転がる不良達を指で差すが敦はピクリと一瞬口端を歪めただけで他に表情の変化は無い。
「だーっから、俺は見にきただけだって。弱くなったのが演技じゃないのかなーって思って?」
演技…だと?誰が好き好んで何の目的でやる?普通自分に不利な事をやるか?弱くなった様に見せる演技、だと?
「このやろォ!こっちは真剣に悩んで…」
「五條!」
勢いに任せて敦の胸ぐらを掴むが兵藤がすぐさま俺の肩を引いて首を横に振る。そしてこいつなりのフォローを入れてきた。
「中島はお前の心配をしているだけなんだ」
「してねーよ!」
敦が肩をいからせて全否定した。当たり前だ、っつーか見当違いにも程があるだろ。
「せっかく無様にやられるところを見届けてやろーと思ったのによー。邪魔が入っちゃったからなァ」
俺の手をぞんざいに突き飛ばして、敦は兵藤に詰め寄った。
「それにしても強くなったなァー直人くん。あ、単に開き直っただけか?」
兵藤はそれに応じようともせず、ただ竹刀を握りなおしただけだ。
「スゲーなァ、峰打ちってやつ?」
敦が倒れたままの不良達に視線を移した。俺もつられて見回す。確かに、苦しそうに横たわって体を痙攣させてはいるものの外傷は特にない。
「急所を突いただけだ」
「…甘えなァ」
再び目線を戻した敦は、今にも飛びかかりそうな距離までにじりよる。ポケットに手を突っ込んでいるが、いつ事を起こすか分かったもんじゃない。兵藤は一切動かない。
「その甘さが命取りなんだぜ?…まだ俺に適いそうもねェな。前みたいに吹っ飛ばされて終わりだぜ?」
「俺は喧嘩をするつもりは無い」
「へえ?」
ククク、と喉を揺らす敦に漸く危機感を感じたのか、竹刀を幾分か前に持ち出して兵藤は一歩後ずさった。俺達の様子を見て、何が可笑しいのか敦は笑ったままだ。
「まさか、約束は破らねェよ。なァ?お前に手は出さねーってば」
「……、五條にも出すな」
「そいつには適用しねぇ」
あろうことか、兵藤はあからさまに肩の力を抜いた。その様子に俺は釈然としない…何で今の言葉を信用した?何でそんな簡単に警戒を解く?もっと用心深くなかったか?約束って何だ?
「何なんだよ!」
俺は思わず疑問を口走ってしまった。大怪我を負わされた相手、しかもよりによって超性悪の敦に何でこんなに打ち解けましたオーラ出してんだよ!二回会ったぐらいでなるか普通!
色々と気に入らない事だらけでぎゃいぎゃいと二人に食ってかかる俺に、敦は横目で蔑むような冷たい視線を浴びせてきた。兵藤の方を見れば困ったような憐れむような何とも言えない表情を浮かべられる。
…何で俺だけこんな扱いなんだ?泣いていいですか?
悔しくて急に黙りこくった俺の背を兵藤が押した。
「もう行こう」
促され渋々背を向ける。確かにこの場にいる必要はねえ。まだ足元の覚束ない俺の側につこうとした兵藤を、今度は敦が呼び止めた。
「待って」
呼び止められたのは俺ではないはずなのに一緒に振り向いてしまう。何だ、と聞き返す兵藤の腕を引いた敦は俺に見せつける様にあいつの耳元に唇を寄せ他に内容を聞かすまいと手を添えながら何か耳打ちをした。
聴き終えた兵藤は僅かに面食らったがすぐに敦から顔を背けて「行こう、」と再び催促する。
今何を囁いた?聞く義理も問い詰めるだけのプライドも無い。ただその一連の動作にとてつもなく苛立った。それは敦や不良達に感じる苛立ちとは別物で疎外感ともまた違う。敦が現れた事の怒りと2人が既に打ち解けた様子を見たショックと内緒話の嫉妬。
ああそうだ、嫉妬だ。この言葉が一番しっくりくる。兵藤の登場で内心浮かれてたのに更に敦が現れて気分は急直下。自分は不甲斐ないし分けの分からない感情に左右されて、苛立ったもどかしさの捌け口に道中の壁を悔しいままに蹴った。
「ックソ!!」
「五條!…やっぱ叔父さんの所にいった方が」
「いかねー!」
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