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マクベス
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「あなたが何も話してくれないのなら」
僕は、ある日、告げた。
「もう僕はあなたといっしょにいるわけにはいかない」
僕は、神経の張り詰めるような毎日に疲れきっていた。もう、限界だった。
「うん」
彼は、神妙な面持ちで、頷いた。
「何も教えてくれないで、いっしょにいるのが、つらいんだ」
僕は、彼が何か言ってくれるのを、打ち明けてくれるのを、最後まで期待していた。
だが、弓弦さんはうなずいて僕の意思を肯定しただけだった。
「そのほうがいいだろう。どの道、そうするつもりだったんだ」
彼は、下を向いて、感情を抑えた、耐えるような、一見冷静な声で言った。
「本当に、それでいいの?」
僕は、すがるような気持ちで言った。何か言ってほしかった。打ち明けてほしかった。
「何を言えというんだ? 俺にもわからないのに」
彼は、マクベスの人殺しのように、両手を掲げて言った。血塗られた手。
「君は何を殺したの?」
僕は、見えない何か、彼が見ている光景を、彼の手に見て聞いた。
「何も」
弓弦さんは青ざめて否定した。僕は、彼を追い詰めるように、言った。
「その手、血で濡れた手」
弓弦さんは自分の顔の前に掲げた両手を恐ろしそうに見た。
彼の美しい大きな手が、長い指が、かすかに震えていた。
僕は、さらに彼を追い詰めて言った。
自分も追い詰められていたからだ。
真実を追い詰めたかったからだ、彼を苦しめるつもりは、なかった。
「君の胸から、血が流れている」
いや、本当は、どうしてこんなことを言ったのかわからなかった。
ただ、そう思ったのだ。
日ごろ、そう思っていたから、見えないものを、象徴的に、あるいは、本当にそのように、感じたから僕は言ったのだ。
僕は、痛々しいものを、感じていたのだ。
痛々しさが自分の痛みのように感じられて、いや、自分の気付かない傷を抉り出すようで、ひりひりして痛かったからだ。
僕は、それが、不快ではなかった。
あまりにも、きつかっただけだ。
一人で耐え続けるのは、つらかっただけだ。
だから、ただ彼が、真実を言ってくれさえすれば、僕は救われるのに、と思った。
真実を、僕に打ち明けてくれさえすれば。
結局、僕は、その器量がなかったのだろう。
事実、痛みに耐えられず、彼に振り回され翻弄されて、もう耐えられないと音を上げていたのだから。
彼を追い詰めたりしなければよかった。
でも、自分を守るために、そして、彼を助けるために、僕は、どうしたらいいかわからなかったのだ。
弓弦さんは恐怖の色を浮かべて僕の顔を見ると、後ずさりした。
「ごめん、変なことを言って、どうかしてるんだ、僕は、最近」
僕は、彼の反応を見て、初めて我にかえったような気がして、言った。
僕は、少し飲み物を飲んで、心を落ち着けた。
僕が、彼の様子を、心配して見に行くと、弓弦さんは、彼の部屋のベッドの上で、シーツに包まって、震えていた。
僕は、明らかに、彼に言いすぎてしまったと感じた。
彼を追い詰めるようなことを言わなければよかった。
でも、耐えられなかったのだ。
「あなたを困らせようとするつもりはないんだ。ただ、あなたの力になりたくて。何もできないのがつらい」
僕は、一生懸命に、僕の気持ちを伝えたくて、言った。
言いながら、僕は、彼の部屋に入り、枕元に近寄って、弓弦さんの肩に触れようとした。
「寄るな」
弓弦さんは引きつった声を出した。
「もう、耐えられないんだ。緊張に。何か言って、あなたのことを教えてほしい、あなたのことを信じていたいのに」
僕は、懸命に、誠意を尽くして言った。
けれど、彼は拒むように言った。
「放っておいてくれ」
「放っておけないから困るんじゃないか」
もう、止めにしたいんだ、こんなことは。
なのに、この人は、何を頑なに守っているんだろう。
なぜ、心とは裏腹のことを言うのか?
ti cerco.cercami.
僕らは互いに探していた。
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