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堂々宣言
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促されるまま足を進めてこのチームの総長、3年の宮古とバッチリ目を合わせながらソファに近付いた。
宮古は写真で見たよりも割と落ち着いた容姿をしていて黒髪のままで、右サイドを後ろに撫でつけているだけだ。切れ長の真っ黒い瞳が鋭利な刃物の様に俺を捉えている。形のいい鼻に小さめの唇。和風美人ってトコだろうか。
俺の頭から足先までをじっくり舐めまわすように観察しまくった宮古は途端にへっ、と声を漏らしその澄ました顔からギャップのありすぎる悪どい笑い方をした。
黒い笑顔のせいで一気にイメージが崩壊する。やっぱこいつは悪名高い総長でした。
「なんだ、思ったよりもデケェな」
笑い方にもギャップがあったが喋り方も想像してたより随分深みのある重い声だ。そんな容姿と中身に頭も運動神経も良い訳だからやっぱり恐ろしい。本当におっかない所へ来ちまったと今更後悔した。嫌味なくらい長い脚を組んで何が楽しいんだか宮古はニヤニヤと笑う。
「御法だったか…?…一人で、マックスを制圧したそうだな」
わざとらしく「一人で」を強調して言われ、ギクリと体が反応し胸が痛い。そんな様子の俺が面白いのか更に追い詰めてくる。
「近々…お前をどこのチームに入れるか闘争を起こし…その闘争に紛れてお前とマックスを制圧するつもりだった。が、それより先に教師達がお前を手懐けたみてェだな…?今は丁度俺達にとって面白いくらい上手いように事が進んでるってワケだ」
マジで計算高い奴だ。総長がいるのといないとでは本当にチームのレベルに差があるらしい。何も言い返せる余地はないので黙って、偉そうにソファに座る宮古を見おろした。先生達はこの男に対してどんな策を考えてるんだろう。
「狙ってる獲物の事を調べないはずがねぇだろ。一体どうやってあいつらに躾られたかは気になるが…逆を言えば教師達からお前を取ればファイアービートは敵無しなんだ。分かるか?この松風岬に一匹狼は必要ねえ。俺は変わり者のお前がどのチームに入りたいと言いだすのか一年も待った。なのに一向に関わってこねえからわざわざ重い腰を上げて招待状を出してやったんだ」
招待状とは七山の事か?話の流れで俺を勧誘する展開になっている。だったらこれ以上この男の言葉を聞いていたらまずいだろ。早々に切り上げねぇと。宮古から顔を背けると隣に居た七山につっかかった。
「おい、さっき俺を連れて来る時一目見るだけでもいいから、って言ったな」
「え、あ、あ~言ったっけー…」
いきなり声をかけられて驚いた七山は言葉を理解するととぼけた様に視線を泳がす。俺は辺りにまで聞こえるようにわざと音量を荒げた。
「言った。もう顔は合わせたんだから充分だろ。用は済んだ、わざわざこいつの小言まで聞いてやる義理はねぇーんだよ」
後ろに居る男たちを払いのけ、立ち去ろうと早急にドアへ向かう。しかしそう簡単にはいかず背後に気配を感じた途端に肩を掴まれて後ろに引かれた。いつの間にソファから立ちあがって俺の背後まで来た悪魔のボスが笑って片眉を上げる。
「待てよ。せっかく来たんだから話ぐらい最後まで聞いていけ」
「そんな暇ねーんだッ、つ」
肩を掴む宮古の骨ばった指先が皮膚にぎゅっと食い込んだ。すげえ力だ。
痛みに気を取られた瞬間あれよあれよと押し戻されて元居た位置まで連行されるとその後ろでスタンバイしていた七山にガッチリホールドされた。もがいて抵抗するが逃げらねえ。嫌な予感がしてきた。
「ッ、離せよ」
「お前がはい、と言えば何もせずこっから逃がしてやるよ。ファイアービートに入れ、御法」
「断る、入らんっ。何度も言わせんな、」
「主導権は俺にあるんだぜ?…大人しく言う事を聞いた方が賢明だと思うが」
「誰が…。アンタも諦めろよ…俺はお前らのいいなりにはならねえ」
「…威勢だけは充分なようだな」
何でこの男に日本語が通じないんだと躍起になる。たぶん宮古も同じことを思っているんだろうな…。
もしこの場に先生達が居たならファービーに入ってスパイになるだのなんだのと案を出してくれたかもしれないが勿論そんな手助けは無く、俺は絶対にこの男に屈してやるものかと意地になってた。
幹部になろうが下っ端になろうが組織の中に入るという事は決して融通が利くわけじゃねえ。ファービーに入れば宮古達の手の内が分かり寝首を掻く機会があるかもしれねえが同等のリスクを伴う。組織に入ればあくまで宮古の「下」につくことになるからだ。
「つーか…何でそんな、俺に拘るんだよ…」
「それはお前が良い戦力になるからだ。」
目の前で腕を組み、大きく溜息をついた宮古は顔面から笑みを消した。
「…は、戦力って、誰と戦うんだよ…アンタのその頭がありゃ俺なんかいなくてもヨユーだろうが」
「馬鹿か、敵は校内にいる奴らだけじゃねえ。それに味方は多い方が良いに決まってんだろ。強ければ強いほどなあ。だからお前を敵に回すと厄介なんだよ。また得体の知れねえ奴と手を組んで床でもぶち抜かれたらたまったもんじゃねえ。…教師共も同じ考えだからお前を選んだんだ。何もお前じゃなくても他に味方になりそうな生徒は何人もいる。けど教師はあえてお前を選んだ。
体格が良くてそこそこ強い、けれど人の裏を読めるほどかしこくはねえ。根は真面目で責任感も正義感もある。御法の様なタイプはアイツ等にとって最も扱いやすい人間だ。お前は好きなだけ利用されて使い捨てられる駒にすぎねえ」
七山に反抗するのも忘れて次から次へ流れる内容に体が強張る。味方、扱いやすい、利用、使い捨て、全部頭で絡まって混ざる。俺と先生達の関係、それは単純に教師と生徒というだけ。ここがこの状況だから少し変わった事をしてるだけ。利用、使い捨て、分かってるンな事。
もともと最初からそのつもりで今回の事に協力したんだ。驚くようなモンじゃねぇよ。何よりも俺が先生達のためにそう望んだんだから。
「そんな都合のいいように使われるくらいならこっちで自由に過ごした方がいいと思わないか?俺達となら気兼ねなく好きな事できるぜ…?」
「ちょっと前の俺だったら多分、迷わずここにはいってたな…」
少し動揺したのは事実だが、今度はしっかりと睨みながら相手に向かって一歩前へ出た。後ろで七山が警戒して俺の腕を捕らえる力を強める。
「ここが普通の学校だったらわざわざ先生側につくような事はしねェよ…こんなくだらねぇ学校じゃなかったらな…。後一つ訂正しておくが俺は真面目とかいう以前に、厄介事には関わりたくない超平和主義のめんどくさがり屋だ。そんな俺に決心させたんだ…先生達は」
冷たい瞳が俺を写して揺れた。
「テメェらなんぞの下にいるよりまだ先生達と居る方がましだっつーの。…好き勝手したいから学校を乗っ取るってか?教師に暴行するってか?何を粋がってんのか理解できねぇが、そりゃガキの我が儘ってやつだ!群れたきゃ学校の外でやれ。
歯向かう奴は全員倒すぜ、時間かかっても俺が統一してやらァッ」
吐き捨てるように宣言したら少しの沈黙の後、宮古がもう一度深く溜息をついた。顔は見えないのに後ろで七山がニヤニヤと笑ってる気がする。マジで腹立つな。
でもどこか、内心清々しい気分だ。公言できたんだ。俺は絶対に実行してやる。
「交渉決裂…か」
「最初から言ってんだろうが…ま、アンタが土下座してお願いしますとでも言えば考えてやってもいいぜ?」
「ハッ…そうならやってやりたい所だが、俺にもトップの立場ってモンがるんだ…なめられちゃ困る」
鼻で笑った宮古は再び意地の悪い笑みを見せて何かを払うように手を小さく振った。それは合図だったらしい。
「この手は極力使いたくなかったんだが…危険因子を野放しにできねぇ…実力行使だ」
ああ、またデジャヴ。いやデジャヴじゃねえ。…二度目だ。
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