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生徒以上恋人未満
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◇◇◇◇◇◇
「会長!これどこに持っていけばいいですか?!」
「月乃くんーこの資料ってさー」
「頼むよ!聖夜この通りだ…っ」
文化祭まで一週間を切ってから
放課後休む暇なく生徒会に仕事が舞い込んでくる
「くそ思ったよりも忙しいな…」
くだらない事から重要な事までさばいてもさばいても後が尽きない
やっと生徒会室に駆け込んでくる生徒が居なくなった頃には夜の八時を過ぎていた
「副会長悪いな付き合わせて」
「いいっすよ〜!それにしても文化祭前ってなんでこんなにも忙しいんすかね?」
「ほんとにな…」
一緒に残ってくれた副会長と別棟から移動して渡り廊下を歩いていた時先のドアに人影が見えた
「ん?おい、そこにいるの伊藤か?」
「っ!!!!」
俺の声にビクッと肩を揺らして過剰な迄に驚いている姿は何だか捨て猫のように思える
「ああああの会長いいい今お時間ありますか?」
眼鏡と長い前髪で顔の半分を隠しながら声を裏返し尋ねる伊藤の顔は真っ赤で林檎の様で少し面白い
副会長と話を終えてからでも構わないかと返事をしようとしたとき副会長が口を開く
「あ、俺じゃあ先に帰りますね会長お疲れっす〜」
「ああ、悪いな…遅くまで手伝ってくれてありがとう」
「いいえ!お力になれて良かったっすよ!じゃあまた明日」
気を利かせてくれたのか先に帰ると言ってくれた副会長に礼を言って伊藤と並び歩き出す
あんな暗いところでずっと待ってたのか?
何か綾崎達にされたのか?
隣で俯く伊藤を横目に色んな考えが頭に浮かんだ
しかし下駄箱に向かい歩き出しても一向に切り出そうとしない伊藤に痺れを切らし俺から話かける
「で、伊藤どうかしたか?綾崎達か?」
「あっ………いや…あの…一緒に…帰れたら…いいなぁ…って」
「それだけの為にこんな時間まで?もし俺が先に帰ってたらどうするんだよ」
「いいい良いんです!別に僕はそれでも構いません…」
「……なんか良く分かんねえけどこれからは先に声かけろよ」
想像とは全くかけ離れた内容にガクッと肩の力が抜けて半ば呆れてそう言う俺とは反対に伊藤は何故なのかほんのり頬をあかく染めて俯いていた
「え?!話しかけるなんて…」
「そっちのが良いだろ?あんなところで待たれるより放課後でもいつでも一言くれた方が俺も動きやすいしな」
「…で、でも僕なんかが」
「あのな、俺なんかって言葉は良くないぞ…そんなだから綾崎達につけ込まれるんだ」
「……っ」
「あ、悪い…言い方悪かったな…」
「いっいえ!会長は悪くありません…その通りですし」
「…………とりあえず敬語は辞めねえか?」
「へ?!」
「前も言ったろ?俺達同じ学年でもう他人でもねーんだし」
「僕なんかが……アウッ…!」
さっきと同じ事を呟く伊藤の頭に軽くチョップを落とすとまた過剰な迄に驚くのを見て笑みが溢れる
「ふっ伊藤は猫みたいだな」
「……猫?」
「ああ、こうやって頭撫でると目閉じるところとか異常に驚きやすいとことかな」
「………会長は猫好きですか?」
「犬も猫も好きだ」
「…そう…ですか…」
サラサラな黒髪を撫でながらそう言うとまたほんのりと顔をあかく染めて俯く
照れ屋なのか?
自己主張があまりない伊藤と対照的な俺にはその反応の意味がよく分からなかったが嫌そうにはしていないから大丈夫かな
そう思いわしゃわしゃと弟達にやっている癖で頭を撫でていた時反対側から七聖先生が歩いてきた
先に気づいたのは伊藤で慌てて眼鏡を直すとこれもまた大袈裟な迄に頭を下げて挨拶をする
あの日以来まともに顔を合わせるのは今が初めてで少しだけ緊張した
文化祭準備で話す時間がなかったのもあるが、俺自身が意識すればするほど照れてしまってちゃんと顔を見る事が出来ない
それに話したら絶対に触れたくなるだろうから自分の中で制御が効くようにできるだけ顔を合わせないようにしていた
「七聖先生さようならっ!」
「ふふっはい、さようなら」
真っ赤な顔して挨拶する伊藤に七聖先生がクスクスと微笑み返す
この前よりも襟足もだけど全体的に髪が短くなっていて髪を切ったんだとわかった
「………先生、髪切ったんですね」
「え?…よく分かりましたね」
「…………」
分かるに決まってる
それだけ貴方のことしか見てないんだから俺は
そう思うのに、思っても言えないこの距離感がやけにもどかしくて寂しく思えた
「会長…?どうしたんですか?」
「あ、いや悪いぼーっとしてたわ」
何日ぶりかにみる七聖先生は廊下の窓から差し込む月明かりの光でやけに綺麗に見えて
真っ直ぐな透き通った茶色い目に見つめられて視線をそらす事が出来なかった
…………このまま連れて帰りてえな
その華奢で細い体もサラサラと透き通る水のような心地いい声も綺麗な瞳も全部全部俺だけのものだって言えたらいいのに
そこまで考えてまた馬鹿なことを考えてしまったことにハッとする
俺がこんなんだからあの日先生に突き放されたのに自分が余りにも余裕がない上にかなり独占欲がある事に驚いた
「…じゃあ帰るか伊藤」
「はい!」
「……七聖先生、さよなら」
「…ええ月乃君遅くまでお疲れ様でした、気をつけてくださいね」
「先生こそ、夜遅くまでお疲れ様です」
真っ直ぐ真っ直ぐ先生に見つめられる
今俺は普通の生徒として先生と話せているだろうか
周りから見て不自然じゃないだろうか
ちゃんと俺は生徒の顔でいるのだろうか
どくどくと煩い心臓の音を聞きながら伊藤と歩き出す
後ろには愛しい人が居て
だけどまともに触れる事も出来なくて
不確かすぎるこの関係も
やけに遠く感じたこの距離も
苦しくて堪らないと思った
「…会長?」
「ん?」
「なんだか…元気ありませんね僕といるからですか…?」
「伊藤と居るからってなんで元気がなくなるんだよ、意味わかんねえやつだな」
「わああっ」
しゅんとする伊藤の頭をガシガシと撫でると伊藤のひょろっこい体が揺れる
「伊藤ちゃんと飯食ってんのか?」
「た、食べてます」
「お前それにしてもほせえな、脇腹なんて肉ねえじゃんか」
「ひゃっ!」
「あははっ悪い悪い!急に触ったら驚くよな」
「…か、会長今のはいたずらっ子みたいです…」
「悪かったって、ほら行くぞ」
真っ赤な顔して少しだけ拗ねてる伊藤と下駄箱について校舎をでた
先生この後もまだ残るのかな…
俺本当に先生の事になったら自重出来ねえ馬鹿だなぁ
ほとほと自分の馬鹿さに呆れながら、隣で楽しそうによく話す伊藤の話を聞きながら歩き出す
早く明日になって欲しいと思った
学校なんて面倒だったけど学校だけが先生に会える唯一の場所だから
毎日が平日になってくれたらいいのになんて馬鹿なこをまた考えた日だった
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