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2日目
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黒いエプロンをつけると、なんだかんだで店員モード?になるから不思議。
スーツを着たらスイッチ入るっていう、仕事人間の気持ちもやっとわかった。
父さんが外国人なんだけど、こういうとこ日本人だなぁって思う。あ、でも俺日本から出たことない。
「いらっしゃいませー。」
本日何度目かのその台詞を口にして、注文を聞きに行ってから、ようやくそのお客様が昨日のあの人だったことに気づいた。ほら、あの人相悪い人。
「ご注文は、えーっと...いかがなさいますか。」
「...アメリカン、ホットで。」
マニュアル通りの台詞を言ったはずなのに、その人はちょっと怪訝そうに注文してくる。
そういえば、常連だった、この人。
昨日と同じものですかって伺うべきだった?うー、わかんない。
ほら、昨日先輩に脅されたから。あのお客様の機嫌を損ねてないか気が気じゃなくて、震えながらコーヒーを運ぶ俺。
アメリカン運ぶの、どうしても慣れないんだよね。だって、カップ浅いのに、並々と注がれてんだよ?どうして世のカフェ店員のお方たちは、軽々と運んじゃうんだろう。
あの人がなんだかハラハラした目で見てくるから、ヘマをしないか心配で余計に力が入ってしまう。
それが悪かった。
「わっ...!」
「...あっつ...!」
どうしよ。
やっちゃった。ほんと、どうしよ...た、タオル!じゃなくてペーパー、じゃなくてナプキンっ...!
あともう少しって時に、あと一息で机の上だったのに。震えた俺は、手を滑らせてカップを落としてしまった。よりによって、その人の膝の上に。
当然大惨事。色がいい感じに落ちたデニムの上には、黒いシミがどんどん広がっていく。それと同時に、全身の血の気がサーッ...と引いていくのがわかった。
「ごめんなさいっ...!ほんとにごめんなさいっ...!」
涙目になりながら、ナプキンであちこち拭く俺。終わった。クビかもしんない。
この人すごいお洒落だなー。ってそんなこと思ってる場合じゃない。
「て、店長ぉ...!」
もういてもたってもいられなくて、裏に引っ込んだ俺は店長に平謝りするしかなかった。
「...俺から謝っといてやるから。お前は後でケーキ持ってけ。」
「店長ぉ...ごめんなさい、ありがとう。」
「ありがとうございます、だ。」
呆れたようにそう嗜める店長に、改めて感謝。実はいい人だったんだね。煩いおじさんなんてなんて思っててごめんなさい。
「すみません、あの、ケーキ、どうぞ。」
おずおずとモンブランを差し出す俺に、ちょっと顔をほころばせて受け取るその人。甘いの好きなのか。
「あぁ、ありがとうね。ケーキ持ってきてくれたの。」
「あ、サービスです。ほんとのほんとにごめんなさい、...二度とないようにするので。」
「いいよいいよ、新人さんなんだって。慣れるまではしょうがないよね。頑張ってね。」
どうやら、あのとんでもない所業を許してくれる気らしい。
怒鳴られるのを覚悟して行ったのに、怒られるどころか逆に励まされちゃった。
やっぱりいい人なんだ。こんなにも人相悪いのに、はは。失礼すぎる。
よく見たら服屋さんの店員みたいで結構かっこいいし、超お洒落だし。俺こういう感じの人になりたいんだよね。
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