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匠side ⑦
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誰も居ねえ家は 想像以上に広かった。真琴が居ねえ、ただそれだけで こんなにも殺風景な景色に変わるもんなのか。いつも真琴は こんな気持ちを抱えながら 誰も居ねえ家に帰って来てたのか……。
時間を確認するとPM7:30 だった。5月の終わり、今の時期はまだ完全に日は落ちてねえ。でもカーテンを閉じられた部屋の中は薄暗く 時計の音だけが響いて 不気味な空間を演出していた。
俺は 部屋に居たくなくて ベランダに出て 煙草を取り出した。煙草をくわえてジッポで火をつける。キンッと心地のいいリズムの音がして赤くなった先端がジジジと燃える。
ゆっくり吸い込み ゆっくり吐き出す。下を歩く人達を眺めながら、無意識に その中に真琴の姿を探している自分に気付いた。居る訳ねえのに。
立て続けに2本吸った後、部屋に戻ると 今度こそ本格的に真っ暗な空間になっていた。壁のリモコンを手探りで触って灯りをつける。
明るくなった部屋には 相変わらず真琴の姿は無くて 改めて淋しさが込み上げる。その淋しさを粉らわす様に 玄関と洗面所と 電器をつけて回った。真琴が見たら怒るだろうな、勿体無えって。
洗面所で電器をつけた後、そのまま風呂に入る事にした。一旦自分の部屋からスウェットと下着を持って来て ワイシャツを脱ぎ捨て 籠に放り込んでシャワーを浴びた。
こんな時間に風呂に入るのは久しぶりだ。仕事が終わっても いつも真っ直ぐ帰れなかった。
真琴は どんな思いで俺を待ってたんだろう。俺は まだ1日だ。たったの1日。今日初めて真琴を待っている。真琴の耐えた半年間と比べる事すら出来ねえ。
真琴は芯の強え男だ。見た目こそ 線が細くて華奢なイメージだけど 内に秘めた意志の強さは半端ねえ。ただガタイがいいだけの俺とは違う。俺は頭と体を形式的にザッと洗っい風呂を出た。淡い期待を抱いてリビングに戻ると やっぱりそこには誰も居なくて。 静まりかえった部屋に耐えきれなくなって 俺は観たくもねえTVをつけた。
手持ち無沙汰で 取り合えずビールを飲もうと冷蔵庫を開ける。でもすぐに思い直した。真琴に謝るのに 飲んで待ってる訳にいかねえ。冷蔵庫を閉めようとした時、ラップに包まれた皿を見付けた。レタスとハムだけが挟まれた簡単なサンドイッチ。真琴のだ。朝飯を食わねえ俺に遠慮して 真琴はいつも自分用に簡単な物をパッと作ってた。朝は弱くて目の前で人が食ってるのを見るのも苦手だった俺の為に いつもキッチンでサッと食える物を用意してたんだ。自分は朝 ガッツリ食わねえと駄目な癖に。俺はとことん我を通していたんだな。穏やかで快適に暮らせていたのは全て真琴の影の努力の賜物だ。
俺はサンドイッチと水を取り出してテーブルについた。朝、食えなかったんだな……。サンドイッチをラップで包んでいる真琴の姿を想像して、俺は今日もう何度目か分からねえ懺悔をした。
考えたくねえけど、もしかしたらこれが真琴の最後の手料理になるかも知れねえ。一口一口噛み締めながら、丁寧に食った。後から後から後悔が押し寄せる。残業だなんて嘘ついて時間を潰して帰らなきゃ良かった。出張と嘘ついて漫喫なんか泊まるんじゃ無かった。
真琴を失いたくねえ!
ただそれだけ何度も何度も強く願った。
その為なら 土下座だって何だってする。真琴が許してくれるまで 俺は何だってする。
たから真琴、早く 早く帰って来てくれ!
時計を見ると もうPM9:00 を回っていた。遅くなるって、今 何処で何してるんだ?いつ帰って来るんだ?途端に不安になる。
帰って……来る、よ、な、?
俺は いてもたってもいられなくなってスマホを握って 真琴の名前を思わずタップした。
『お掛けになった電話番号は 現在 電波の届かない場所か 電源を切って……。』
機械的に流れるアナウンスに 愕然とした。
真琴……。
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