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匠side ⑨
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真琴!真琴!真琴!何処に居るんだ?
頼む、帰って来てくれ!
途中すれ違ってしまわない様に、注意深く気を付けながら 縋る思いで 駅まで急ぐ。
俺は今朝、どうしてあんな言葉を言えたんだろう?
どうして この先、真琴無しで生きていけるなんて思ったんだろう?
誰よりも真琴を必要としてるのは 俺の方だったのに!
俺は多分、真琴なら別れの言葉を告げても俺から離れて行かねえと 心の何処かで高を括ってた。
逃げ回っても 無視しても 俺の側に居る真琴を、自分でも気付かねえ内に 下に見てたんだ。
なのに あっさり別れを承諾され、たった1日帰りが遅くなっただけで このザマだ。
真琴は浮気した訳でも 無断外泊と決まった訳でもねえ。ただ たった1日、いつもより帰りが遅いだけ。遅くなる連絡だって ちゃんとくれた。なのに そのたった1日ですら家でじっと待つ事も出来なくて 俺はこうしてフラフラ真琴を探し歩いてる。
それに対して真琴は どうだ?俺に浮気されても 無断外泊されても いつも俺を側で支えてくれた。どんな思いで飯を作ってた?どんな思いで洗濯をしてた?どんな思いで俺の側に居てくれた?
真琴が俺より下?
ハッ。俺はとんだ勘違い野郎だ。
嬉しい時 綺麗な顔をクシャクシャにして笑う顔
照れた時チョット眉毛を下げて遠慮がちに笑う顔
怒った時 デカい目を吊り上げて鼻の穴が広がる顔
驚いた時の こっちがビビる位変な顔
どんな表情の真琴も好きだった。
どんな真琴も愛しい。
全部、全部、俺の物だった!
てめえの犯した罪さえ 謝る事も出来ねえクズは 真琴の隣に立つ資格なんてねえ。
だから 今度こそ真琴に謝りてえ!今更とか、どの面下げてとか、そんな言い訳 どうでもいい。恥も外聞もかなぐり捨てて 地べたにオデコ擦り付けて土下座だって何だってする。それで真琴が許してくれるなら、そんなの何でもねえ。
だから……。
真琴、真琴、逢いてえよ……。
すれ違う通行人に ギョッとされる。
俺は この時もう、半べそ状態だった。
遊園地で親とはぐれた迷子の様に、心細くて 泣きたくて 居る当ても無い人を探して歩いていた。
気が付くと もう駅の前だった。ここに来るまで真琴とは会わなかった。本当に電車で帰って来るのか?まさかタクシーで もう家に着いてるとか?だとしたら また真琴を誰も居ねえ空っぽの家に帰らせちまう。クソッ 今、何時だ?
家に電話を掛けようとして、初めてスマホを忘れて来た事に気付く。しまった、慌てて出てきたから机の上に放りっぱなしだ。もしかしたら真琴から着信が入ってるかもしれねえのに。鳴らされても俺は出られねえ。真琴は また俺に無視をされたと傷付くのか?そうじゃねえのに! 取りに帰るか?いや、取りに帰っても 電話が鳴ってるとは限らねえ。真琴は電源を切ってた。それに往復してたら30分以上かかっちまう……。
念の為、もう一度真琴の携帯に電話してみるか?真琴の番号は覚えてる。俺は慌てて公衆電話を探したが 見渡す限り見当たらねえ。八方塞がりでイライラする。煙草でも吸って落ち着こうとして煙草も忘れて来た事に気が付いた。
ああっクソッ!
煙草を忘れるなんて。いや、煙草の方はどうでもいい。ジッポだ。アレを忘れるなんてどうかしてる。何処に行くときも肌身離さず持ってたのに!俺の大切な宝物。
真琴の体にも良くねえし、俺も 長生きして ずっと真琴の側に居てえから、実は何度か禁煙しようとした。でも駄目だった。真琴から貰ったジッポを仕舞っておくなんて出来ねえ。いつも身につけておきたかったんだ。それなのに俺のそんな気持ちを知ってか知らずか 真琴は 新しいのプレゼントしようか?なんて言って来た。そりゃ真琴から貰う物なら何でも嬉しいに決まってるけど、アレだけは駄目だ。他のじゃ替えがきかねえ。
本当は、今では 大分本数は減ってる。でも イライラする時にはどうしても駄目だ。精神安定剤みてえなモンかも知れねえけど、あのジッポのキンッていう音が好きなんだ。あの音を聞くと 真琴を感じて落ち着くんだ。
取り合えず 駅前のコンビニに飛び込み、煙草と百円ライターを買った。帰ってたら 真琴と入れ違いになる可能性が高かった。コンビニで時計を見る。PM11:05 ここで大人しく真琴を待ってた方が早く会えると思った。終電まで待つ覚悟だ。
コンビニ前の灰皿が設置された場所で真琴を待つ。ここなら 駅から出てきた真琴を見逃さねえハズだ。煙草に火をつける。カチッと軽い音がして凄げえ違和感。真琴が離れていっちまった感覚に襲われる。
本当に真琴は ここから出てくるのか?本当は俺なんかとっくに見切りをつけて もう帰って来るつもりなんか無いんじゃねえか?
拭っても拭っても 拭い切れねえ不安に 押し潰されそうになりながら それでも俺は そこを動かなかった。
動けなかった。
………………多分、今のが終電のハズだ。
駅からパラパラと人が出てくる。
その中に 真琴は居ねえ。
見逃した?いや、絶対に見逃してねえ。
途端に それまで必死に我慢してた不安に押し潰される。
もう駄目なのか?
電源を切り、家にも帰らない。
それがお前の出した答え……なのか?
『過ちを素直に認めて 謝って 何度でもやり直せばいいんです。』
遠藤さん……。俺、謝らせても貰えねえ……。
俺はフラフラしながら 駅に向かって歩き出した。
そこに真琴が居ると信じて。
祈る様に改札から中を覗いた。
そこに人影を見つけた!
ベンチに座って 俯いたまま、俺にも気付かねえ。
「真琴!」
俺は改札を飛び越え、ベンチまで突っ走って行き、俺に気付いて 変な顔をして固まってる真琴の唇目掛けて かぶりついた。
ああ、またやっちまった。
あの時と 全く一緒だ。
公共の場で、外で、人目もあって、それより何より俺は真琴に謝ってすら無くて……。
それでも我満なんて出来なかった。
出来るハズもなかった。
俺は 真琴の体温を噛みしめながら
溢れる涙を止める事が出来なかった。
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