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20話 春樹の笑顔、まじプライスレス
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リビングの扉を開けて、悲鳴が聞こえてくる方へ目を向ける。
きっと輝一は涙目になって、自分を追いかけてくるカナちゃん先輩から必死に逃げているんだろう。
そう俺は思っていたのに、視界に飛び込んできたのは全く予想もしていなかった絵面で、俺は思わずその場に立ち尽くし目の前の光景をガン見してしまった。
「ひぃぃっ! お、おおお願いですから!! もうオレを追っかけないでく、ください!!要先輩っ!!」
「あああんっ。この容赦のない力加減に締め方、さすがいっちゃんだね! たまらない! 興奮しちゃうっ!」
「えぇぇー……」
硬いフローリングの上で仰向けになっているカナちゃん先輩。
そんなカナちゃん先輩の右腕を両足で挟み、大変申し訳ないが喧嘩や格闘技が出来るようには全く見えない輝一が、十字固めを華麗に決めている。
頬を赤く染めながら嬉しそうしているカナちゃん先輩にもドン引きだが、涙目で悲鳴を上げながらきっちりかっちり関節技をかけている輝一のそのアンバランスさにも俺は驚き、人は見かけによらないとはこの事かとふと思う。
これはカナちゃん先輩を助けた方がいいのか。それとも輝一にツッコミを入れた方がいいのか。
技をかけられているカナちゃん先輩本人はすこぶる嬉しそうにしているし、いや本当にこれいったいどうしたらいいんだと軽く困惑していると、ソファーに座ってカナちゃん先輩と輝一を見ていた春樹が「おかえり」と笑顔で迎えてくれた。
「これ、いつもの二人のじゃれ合いだから気にしないでね。輝一君は追い詰められると脊髄反射と同じ感じで手が出ちゃうんだ」
「いつものじゃれ合い? ってことは、カナちゃん先輩わざと輝一追い詰めて技かけてもらってるー……とか?」
「うん。カナちゃん先輩はドMだから、輝一君の容赦のない攻め方がたまらないらしいよ」
「まじか」
軽く冗談で言ったつもりの言葉が本当だったとは。
なんと言うか、カナちゃん先輩。自分は変態じゃないって言ってたけど、充分変態の域に居ると俺は思います。
思わず口の端がひくりと引き攣り、変な笑みが顔に浮かぶ。
そんな俺を見ていた春樹の表情は変わらずのほほんと笑顔を浮かべていて、あぁこれは本当によくあるいつもの光景なんだなぁと少し納得した。
「僕が二人の事見てるから、刻也君は今の内に荷解きしてくる?」
「あー、いや。俺、輝一に悪い事したから荷解きの前に謝らないと」
「そっか。それじゃあ二人が落ち着くまで一緒に待っていようか」
ここどうぞ。そう言って春樹が自分の隣のスペースを勧めてくれたので、俺はありがたく座らせて貰う事にする。
悲鳴と歓喜の声が入り交じるちょっとばかりカオスな部屋の中。俺は隣にいる春樹へ視線を向け 、さて何を話そうかと少しばかり思案した。
「あのさ、ここが顔重視のとんでも学園だって事や親衛隊があったり同性愛者が多いってのは聞いたんだけど、他に何か変わった所とかあったりする?」
「んー、そうだねぇ……。僕と輝一君は中等部からここに居てもう慣れちゃってるから変わってるかどうか自信は無いけど、中等部と同じく高等部も委員決めや部活決めは新入生歓迎会の鬼ごっこで決まるって聞いたよ」
「……え?」
質問をしたのは俺だが、予想外の返答に思わずポカーンと間抜けな顔を晒してしまう。
俺が予想していたのは、他には特にないよ。か、あったとしても豪華な薔薇園的な物が敷地内にあるとかそういう系のやつだと思っていたのに、まさかの学校行事。
ああ、そう来きたか。まじか。
ははっと乾いた笑いが自然と口からこぼれ落ちる。
鬼ごっこでどうやって委員と部活を決めるのか。春樹に再び質問すると、嫌な顔一つせず笑顔のまま俺に説明をする為口を開いてくれたがーー。
「上級生達の間では別名、新入生狩りって言うんだけどね」
「なにそれコワイ」
開口して速攻、インパクトあり過ぎな別名に俺は黙って聞いていられなかった。
つーか最早それ新入生歓迎されてねぇよ。
めっちゃ獲物にされてるじゃねぇか!
「鬼は二・三年生。逃げるのは僕達新入生で、一回目が委員決め。二回目が部活決めになってて、上級生に捕まった新入生は自分を捕まえた上級生の委員会、部活に強制的に入らないといけない決まりなんだよ」
「強制……。しかも二回あるのか」
「うん。制限時間もあって、中等部の時は一回一時間だったけど高等部も同じなのかな? ごめんね、ちょっとそこはわからないんだけど、もし何か入りたい委員会とか部活があった場合は皆、新歓が始まる前に知り合いの上級生の人と捕まる場所を決めたりしてるよ」
「なるほどなぁ。因みに、制限時間内ずっと上級生から逃げ切れた場合は?」
「その場合は入らなくていい事になってるよ。あくまでも強制的なのは捕まったら、だから。でも僕は今まで逃げ切れた人がいるって言うのを聞いたことがないかな」
「マジっすか」
「うん、マジっすよ」
あああん、もっと、もっと僕を苛めていっちゃぁん。と、カナちゃん先輩のどこか艶かしい声が室内を満たす中、俺は軽く頭を抱えガックリと肩を落とす。
委員会はいいとしても、部活は正直めんどくさい。
そもそも特待生として成績を維持する為にこれからも勉強をひたすらしていかないといけない俺にとって、部活をする余裕なんてあるわけが無い。
授業を受けただけで内容が全部理解できる天才的な頭をしていたら話は別なんだろうが、生憎俺は天才でもなんでもないわけで。
授業料やその他諸々。普通なら莫大な金が掛かる所を、特待生はかなりの額を免除されている。
そんな特待生の席を維持できなければ、俺はきっと糞親父に呼び戻されこの学園に居れなくなるだろう。
そうなればしぃ兄にも会えなくなる。
そんな事は絶対に嫌だ。しぃ兄ともう一度離れるとかそんなの俺が耐えられない。
新入生歓迎会がいつやるのか知らないが、何とかして逃げ切れる算段をつけれないものか……。
「あ、それと、上級生達から逃げ切らなくても部活だけなら免れる例外があるんだけど」
「!? その方法は!?」
俯いていた頭を勢い良く上げて軽く詰め寄る俺に驚いたのか、春樹は大きな目を更に見開いて一瞬硬直してしまう。
あ、悪い。そう言って身を戻した俺に大丈夫だよと言って微笑んでくれた春樹の笑顔、まじプライスレス。
「刻也君は加賀美先輩から補佐役について何か聞いてる?」
「ん? 確か、生徒会役員や各委員長、副委員長の仕事をサポートする役、だよな? 任意で付けることが出来るとか」
「うん。実はその補佐役になれば部活に入らなくてもいいんだよ。生徒会役員の人達とか各委員長、副委員長達ってやってる仕事量が半端なく多いから部活とかやってる暇がないんだ。そんな人達の仕事をサポートする補佐役も結構忙しいから、部活は免れる事になってるよ」
「なるほどなぁ。補佐役って指名制?」
「新歓が終わった後ならそうだね。けど大体は、一回目の鬼ごっこの時に各委員長達とかが自分の補佐役として欲しい子を捕まえに行くよ。不思議とこの学園で人気のある人達って皆ハイスペックだから、補佐役に選ばれた子は皆すんなり捕まちゃうんだ」
「うわぁ、美形でハイスペックとかほんと卑怯」
「加賀美先輩もハイスペックだよね?」
「うん、否定はしない」
俺が速攻で頷けば、春樹がふふっと笑い出す。
そこに居るカナちゃん先輩も実は凄いハイスペックなんだよ。
笑いながらそう語る春樹の言葉に俺は軽く驚き、十字固めから今は三角絞めを嬉しそうに掛けられているカナちゃん先輩に目を向ける。
「輝一君て陸上部の人達並みか、もしかするとそれ以上に足が速いんだけど、中等部の時カナちゃん先輩は本気で逃げる輝一君を捕まえて自分の補佐役にしてるし、加賀美先輩にはたまに怪力お化けって言われてるよ。テストの成績も常に学年の十位以内に入ってるしね」
「え、足の早さもそうだけど、あの馬鹿力なしぃ兄に怪力お化けって。しかも常に学年十位以内? ……マジか」
カナちゃん先輩、恐るべし……。
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