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楽しい時間は過ぎ去るのが早い
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「昔々あるところに.....」
口上と同時に、水槽内へ人魚達が現れる。浦島太郎の口上を聴きながらその優雅な動きに俺は目を奪われていた。
口上が終わると浦島太郎が、水槽の前にあるステージへ出てくる。いかにも精悍な、真っ直ぐな青年だった。男の目から見ても、男前だと思う。何と無く見惚れていると目があったような気がした。
作り物の亀を助けて、浦島太郎が竜宮城へ連れて行かれる。そこからは水槽で話が進んでいく。
ふと息は大丈夫なのかな、とか色々な事を思うがこんなに幻想的なものを見ているのに現実的な事を考えるのは野暮だと思い、考えないようにした。
竜宮城の場面はこの世のものではないかの如く、優美で素晴らしかった。水の中だとやっぱりふわりふわりと衣が舞い、さながら踊り子達は天女のようだ。
ふと四郎ちゃんを見ると、寝ている。
本当お馬鹿!!勿体ない!!
俺は思わず四郎ちゃんの太ももを軽く叩いた。
四郎ちゃんがびっくりして姿勢を正す。眠ってなかったような顔をして水槽を見つめ直した。
それに満足して俺も水槽へ目を戻す。
乙姫役の女性がやっぱり飛び抜けて美しい。
艶やかな黒髪は水の中で生き物のように靡き、水の中であるのに輝くような肌をしていた。
そして最後、浦島太郎が玉手箱を開けてしまい、老人へ変わる。すごい量の煙が会場の中を漂った。
初めて見る波劇に感激しているともう終演を迎えていた。
俺はこの上ない感動をしている。
ほんっとう、こんな凄いものだと思わなかったから興奮が収まらない。この感動を伝えるべく、四郎ちゃんを見ると四郎ちゃんはまた半分目を閉じていた。
「お馬鹿!」
会場内で人々はもう出ようとざわめき始めている。
そんな中でも寝ようとしていた四郎ちゃんを小突くと四郎ちゃんは慌てたように言い訳を始める。
「いや、起きていた。でもあまりにも面白くて...」
「四郎ちゃんの無感動野郎!」
「.....」
一緒に素敵なものを共有するのって、大事な事だって俺は思うのに、四郎ちゃんはそんなの御構い無しだ。
なんだか無性に腹が立ってきて、頰を膨らませたまま俺はそっぽ向いた。
慌てた四郎ちゃんが何かごちゃごちゃ言い訳してるけどもう聞いてあげない。
船頭がやってきて、俺たちをロビーへ続く道の方へ連れて行ってくれた。彼にお礼を言い、座席船から降りる。
途端に、水の香りが遠のいた気がした。
突然、ざわめいていたロビー内が黄色い悲鳴に包まれた。
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