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不思議な縁は
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文化祭2日目の朝、副風紀委員長の保科流星は普段より随分と早く学園に向かった。昨日の事件で咲耶がショックを受けていないか気がかりだったが、夜に部屋を訪ねても会えず、今朝また部屋を訪ねても返事が無かったため、仕方なくメールだけを送っておいた。顔を見るまでは気持ちが落ち着かず、部屋で一人でいても手持無沙汰になるため、こうして少し早いが学園に行くことにした。普通科の寮は3階建で各学年ごとに階層が分かれており、3学年になる流星の部屋は寮の3階にあった。のんびりと階段を下り、寮の玄関まで来ると、ガラス扉越しにこちらに背を向けて扉に寄りかかっている人影を見つけた。誰かと待ち合わせでもしているのかと、特に気に掛けることなく隣を通り過ぎようとしたが、その人物の横顔を見てぎょっとして思わず足を止め振り返った。
「お前、虹原那波か・・・?」
「・・・そうですけど。」
いきなり声をかけられた事に驚いたのか、きょとんとした顔で那波は答えた。しかし、その容姿は昨日までの那波と明らかに変わっていた。那波の代名詞ともいえるいつもの黒いセーラー服ではなく、指定の学ランに身を包み、胸まで伸びていた絹糸のように美しかった亜麻色の髪は顎のラインで無造作に切られていた。流星と那波は声を掛け合うような仲ではなかったが、那波のあまりの変貌ぶりに声をかけずにはいられなかった。
「その姿、一体どうしたんだ?」
「ああ・・・。まあ、心境の変化といいますか、罪滅ぼしといいますか・・・。俺なりのケジメってやつです。」
短くなった髪の毛先を弄りながら、視線を逸らし気まずそうに那波は言った。
「なる程・・・。」
昨日の事件に関する報告書を既に呼んでいた流星は、那波の言っている罪滅ぼしが何に対することなのか、よく知っていた。咲耶に危害を加えた天音と那波は気に食わなかったが、生徒会長の日野沢有紀を呼びに行ったのは那波だったと聞いた。一時の感情に流され計画に加担はしたが、自責の念に駆られ有紀を呼びに来たのではないかと、流星に状況を報告しに来た副生徒会長の雲峰香澄は分析していた。実際那波はこうして断髪までして反省の色を示している。天音に関してはどうかわからないが、那波に関しては情状酌量の余地があるのではないか。流星は一人様々な考えを巡らすと、深く息を吐いた。
「で、ここでお前は何してるんだ?」
「月瀬さんに謝りたいと思いまして。昨晩部屋を訪ねた時は会えなかったので。」
「そうか。だが残念ながらここで待ってても暫くは会えないかもしれないぞ。」
「え・・・?」
「つきさっき俺が部屋を訪ねても会えなかったからな。」
「そうですか・・・。文化祭2日目が始まる前にきちんと誤っておきたかったんですが・・・。」
那波は肩を落とすと、困ったような表情を浮かべた。その様子からは心から謝罪したい気持ちが伝わってきた。流星は再び深く息を吐く。
「ところで、お前今から少し時間あるか?」
「え・・・?まあ、まだ運営委員会の集合時間には少し時間がありますが・・・。」
「それなら俺に付き合え。その惨めな髪形、どうにかしてやる。」
「は、はあ・・・。」
那波は戸惑っていたが、流星は気にせず校舎に向かって歩き出した。咲耶の敵ともいえる那波の髪を整えてやる義理などないが、本人が既に深く反省をしており、それに何より実家が美容室を営んでいる流星としては、那波の乱雑に切られた髪を見過ごせなかった。
風紀委員室まで那波を連れてくると、パイプ椅子に座らせ、頭を通せる穴を開けたビニール袋をスッポリと被せた。流星は鞄からハサミと櫛を取りだす。
「動くなよ。」
「はい。」
那波は覚悟を決めたように返事をするとギュッと目を閉じた。瞳を閉じた那波は、まるで造られた人形のようだった。咲耶の綺麗さとはまた違った女性的な繊細な美しさが那波にはあった。溜息が出そうな程秀麗な人物の髪を今から切るのかと思うと、ついハサミを持つ指に力が入る。一度深呼吸すると、流星はゆっくりと那波の細い髪にハサミを入れていった。実家の美容室ではいつも両親にヘアカットの仕方を強制的に学ばされていた。その技術がこの学園で役に立つ日が来るとは思わなかった。流星と那波が言葉を交わすことはなく、髪を切る音とハサミの金属音が小さく部屋に響いていた。
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