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もういいです後輩くん
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「真咲、それは昼ごはんじゃないって前に何回も言っただろ」
「……だって……」
今日、真咲は見るからに元気がなかった。
あの日羽島の家で、大神が元カノと会っていると聞いてから
なんとなく大神に会うのが怖くて避けていた。
大神も今日で謹慎があけたというのに朝も昼も真咲の所に来なかった。
大神が来ると思っていて宛が外れた真咲は仕方なく購買に昼を買いに行ったのだが
買ってきたのはパンやお握りではなくシュークリームで。
「食欲ないって言うとお前が、何でもいいから何か食えって毎回言うし」
「おかずだけでもって意味だよ、
それは主食でもおかずでもないしご飯じゃないってのも毎回言ってる」
「お前俺の母親かよ」
「心配してんだよ」
俯きがちに話す真咲を心配そうに見て、
羽島は少しだけイラついたような雰囲気を出す。
元々真咲はそんなに食べる方ではなく、
甘いものなら別らしいが食に対して欲が薄くて。
以前、というより中学の頃にクラスが別れて
真咲をあまり見れなくなった時に見る見る痩せたことがあったので、
羽島はそれが心配だった。そして、その時と今の真咲の状態がひどく似ている。
「大神何も言ってきてないの?」
「聞いてない。
LINEしても反応ないし」
「だから俺が言ってやるって言ってんじゃん」
「いいよ、何か理由あるんだろうし」
表情が乏しくなり、声に抑揚も殆どなく言葉も少ない。
真咲が重い考え事や悩み事をしている時の癖だが、
ああ、高校入ってやっとなくなったのになあ、
そう思うと羽島はつい大神にイラついてしまう。
「何かあったら何でも言えよ」
「ん…」
元カノと会って何をしていたのか、
そう聞けばいいだけの話に思える。
大神なら真咲を泣かせるような事はしないだろうと羽島は思っていたのだが。
「1年の大神くん、彼女居たらしいよ」
「ええ?謹慎明けでしょ今日」
「だって今朝一緒に登校してきたって」
この噂が、朝から学校で流れていた。
どういう事だと大神に詰め寄りたいのは山々だし
噂が本当なら一発殴ってやりたいのもあるが、
真咲が、何か理由があるのだろうと止めるのだ。
それに、問題なのはその彼女で。
「あれ、元カノなんだって、希一の。
神楽先輩が言ってた、朝」
「……見なくていいよ」
「……別に平気だし、見るくらい」
ちょうど窓の外に噂の当人達の姿が見えたので
真咲は頬杖をついてそれを眺めていた。
見なくていいと腕を引いても相変わらず抑揚のない声で大丈夫と言うだけで。
しかもその彼女はいつしか神楽の話に出てきた元カノというではないか。
そりゃあ神楽の話からしたら同じ学校に居ることは知っていたが、
まさか今更大神がそちらに転がるわけがないと羽島はそう思っていたのに。
「……でも、彼女、の方がいいんだろうなあ、やっぱり」
ぼそりと呟かれたそれを聞いて、
ああもう無理だ、と羽島は真咲の腕を引いて無理矢理教室から出た。
「羽島、痛いし、もう昼休み終わるけど」
「じゃあその、寂しいしつらいって書いてある顔なんとかしろよ、
ほんと無理、俺お前のその顔だけは本当やだから、戻らない」
「別に今は中学の時みたいに何されてるでもないし……羽島とも家族ともちゃんと話してるよ」
「じゃあその顔すんなよ、大丈夫じゃないから、
その顔してる真咲、ダメなやつだから」
そう言われて真咲は言葉につまる。
羽島が一番自分を知ってくれてるのも、
一番心配してくれてるのも知っていた。
本当迷惑ばっかりかけてるな、と真咲はちゃんと普段通りに戻ろうとした。
だが、そのタイミングで廊下の向こうから歩いてきたのは
「希一……」
件の二人で。
思わずじっと見つめてしまうが、
大神は少しばつが悪そうにしてからふい、と目をそらしてしまった。
そして、大神の傍にいた彼女は、ちらりと真咲を見て笑ったと思うと、
甘えた声で大神に話しかけた。
「前にあたしと聖以外に呼ばせないでって約束したのに、希一の名前」
「……、……すいません」
「き、いち」
「ごめんね久瀬くん、あたしが希一の彼女のうちは名前呼びやめてくれる?
久瀬くん、別にただの先輩だし問題ないよね?」
そう言われてちらりと大神を見て目が合うが、
ふい、と逸らされて。
「おい大神っ……!!」
「羽島、もう昼休み終わるから行こう、次移動だから」
「けど真咲、」
「……もう、いいや」
食って掛かろうとした羽島に真咲がへらりと笑って言った一言、
いいから、ではなく、もういいや、と。
その一言を聞くのは3年ぶりで、
羽島が真咲から最も聞きたくない一言だった。
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