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何してんだよ親友
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じゅう、と何かが焼かれる音と、鼻腔を擽るいいにおいにつられて真咲は目が覚めた。
眠たい目を擦ってぼうっと辺りを見回すと
見覚えのない部屋に首を傾げる。
「兄貴……?」
「誰がだよ、寝ぼけてんならさっさと顔洗え」
料理をしているのが母親でなく、
ただカフェカーテンで背中しか見えなかったから
じゃあ兄かと呼べば、二人ぶんの朝食を手に持って鷹也が不機嫌そうにキッチンから出てきた。
「あれ、俺……」
「寝たんだよお前、昨日いきなり。
人が告白してるってのに失礼な奴」
「ご、ごめん……!」
「……そんなに顔青くしなくても何もしねえよ、
これ薄くなった方が安心するから」
寄ってきて、す、と目の下を優しく撫でられて。
ああ、そういえば鷹也とは仲直りのようなものをしたんだっけ、とぼんやり考える。
と、不意に真咲の腹の虫が盛大に鳴ってしまった。
「あ……」
「食えよ、最近飯食ってなかったんならスープから飲めよ?」
「や、でもあの……」
「別に何も入ってねえよ」
テーブルに置かれた朝食を指す鷹也に戸惑うが、
大丈夫だから食えとわしゃわしゃ頭を撫でられて。
自分の席について先に食べ始める鷹也に、
真咲も戸惑いながら誘惑には勝てずに手をつけた。
「その、ありがと、いろいろ……」
「別に。
礼なんて言わなくていい、
殺しかけたくせにお前と昔みたいに話したいってとんでもねー事思ってんのはこっちだ」
「でも俺は嬉しい、鷹也に嫌われてなかったのが」
「……そうやって、怒らずになんでも許すの、
お前の悪い癖だってガキの頃言っただろ」
朝食を食べ終えてソファに座って話していると
呆れたように小突かれるが、鷹也はどこか安心もしているようで。
許すも何も、嫌われてなかったのならそれでいいと
真咲はきょとんとした。
「そういや、服。
とりあえず俺の着とけよ、サイズそんなに違わねえだろ」
「あ、ああ、うん、大丈夫だと思う、ありがと」
「お前香水平気だっけ、つけてねえみたいだけど」
「大丈夫だよ、周りにもしてる奴何人か居るし」
鷹也から薄手の七分シャツを渡されて、袖を通そうと広げたら
男物とはっきりわかる香水のにおいがふわりとした。
羽島とは違う、雄という感じのにおいに
やっぱり二人とも昔から正反対だなあなんて真咲は思って。
「また、洗って返すから」
「気にすんなよ、何なら返さなくてもいい」
「いや、悪いし……。
そういえば鷹也、ここ一人で住んでんの?」
「ああ、名義は親だし親もここに住んでる事にはなってるけど、
去年事業が大当たりして今や社長と社長秘書だ、金だけ振り込んできてずっと海外だよ」
帰ってこない、と言う鷹也に真咲は少し戸惑った。
寂しそうにも悲しそうにも思えないが
昔から嘘や感情を隠すのが巧かったから、
どう声をかければいいかわからなかった。
「下も替えろよ、出掛けるから」
「え、出掛けるって……」
「今日一日付き合えよ、あいつらに会わないような場所にするからいいだろ?」
「……いい、けど」
細身のデニムを渡されて、頭を優しく撫でられる。
くしゃりと笑って、じゃあ着替えろと言う鷹也は
本当に小さい頃に戻ったようで。
ひどく安心して嬉しくて、真咲もつられてふにゃりと返事をしながら笑った。
「ここ、鷹也よく来んの?」
「あー、あいつらに会いたくない時とか、
ストレスたまったら来てる」
「鷹也も甘党だもんな」
「真咲ほどじゃねーけどな」
鷹也に連れられてきたのは、高校生が入るには少し敷居の高そうな高級店街で。
その中の、フランス帰りの有名な日本人パティシエがやっているカフェだった。
普段コンビニスイーツばかりの真咲はきらきらと目を輝かせてショーケースを見て
カウンターに立つゆるふわした雰囲気のパティシエに笑われてしまったが
鷹也はそんな真咲を仕方ないなと、少し嬉しそうに笑っていた。
「好きなだけ頼めよ、別にマナーとかうるさくねえしここ」
「や、俺そんなに余裕ないし…ちゃんと選ぶよ」
「そんなもん気にすんな、俺が払う」
「いいよ悪いし、鷹也に奢ってもらう理由ないだろ」
メニューを見ながらそう言えば、鷹也は複雑そうな顔をして真咲の頭を撫でた。
不思議そうに真咲が鷹也を見ると、
どこか自嘲気味に鷹也は笑っていて。
「理由がいるなら中学時代の償いって事でいいか、
それなら俺が払って文句ねえだろ」
「え、や、償いって……俺もう怒ってないし」
「いいから奢らせろよ、
お前は何も気にしないで笑ってろ」
「でも……あ、鷹也……」
メニューを取り上げて、店員にチョコレート系を中心にいくつも頼む鷹也。
真咲は少し複雑そうだったが、
運ばれてきたケーキの美味しさに幸せそうに喜んでしまって。
それからはあまりにスムーズな流れで鷹也があっという間に会計を済ませてしまった。
「なあ、なあ鷹也、悪いって、ちゃんと払うよ俺」
「うるせぇな、いいんだよ。
次、こっち付き合え」
「いや、なんかここ凄い高そうな……」
「お前が今着てるのもここのだから気にすんな」
ええ、と真咲が驚くままに鷹也は目の前の高級そうなブティックに入ろうとする。
それに慌てて真咲が追いかけようとすれば、
不意に真咲の腕がぐん、と後ろに引かれた。
「な、何してんの、真咲」
「羽島……?」
「お前、連絡ないっておばさん心配して、
誰だよそいつ、どっか泊まるならちゃんと連絡ぐらい……」
「……おいおい、誰だ、って、お前もよく知ってる奴だろ鶴人」
腕を引いたのはえらく動揺したような羽島で。
後ろには兄の燕が居たから羽島も買い物に来ていたのだろう。
それに対して大丈夫だと、悪かったと真咲が返そうとしたら
反対側の腕が引かれて、見れば不機嫌そうな鷹也が戻ってきていた。
不思議そうにしていた羽島が、何かに気づいたようにハッとして、
そして見る見るうちに顔色を変えていく。
久しぶりにこんなに怒った顔の羽島を見た、と
真咲はどこか他人事のようにそう思った。
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