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黄金の王妃・16
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ずっと彼の腕の中で、その珍しい寝顔を眺めていたかったけど、やがて寝室のドアが控えめにノックされて、その音で王様は起きてしまった。
今まで寝てたのが嘘みたいに、パッと目を開けた王様は、ガバッと体を起こしてオレを見た。
「すまない、起こしてしまったか?」
「いえ、起きてました」
寝顔を眺めて、触ってました……なんて、心の中でしか言えないけど。
照れ隠しに微笑みながら起き上がると、王様はふふっと笑って、整った顔をちょっとしかめた。
「そんなを顔するな。起きるのが惜しくなる」
勿論、本気で言ってる訳じゃないんだろうけど、優しく頭を撫で、そっと口接けられて、いつもの王様だなと感じて嬉しかった。
久し振りに王様と朝食を食べた後、支度を整えて、王様と一緒に謁見の間に行った。
オレの首には、締められた痕が痣のように残ってたから、それを隠すように、急きょ、絹のスカーフが巻かれた。服と色を合わせたので、一見すると、そういう服装に見えるかも?
お陰で、誰にも何も言われなかったし、不審そうな顔もされなかった。
王妃が暗殺されかけたなんて、あまり知られない方がいいみたい。
バルコニーの下で矢を射てたらしい数人は、あれからすぐに殺されてたらしい。近衛兵が着いた時には、もう死体が転がってるだけだった。
湖の管理小屋はもぬけの殻で、管理人の交代の時に入れ替わってたんだろうって聞いた。
林の中を捜索すると、腐乱死体が見つかって、それが本物の新任の管理人さんかも知れないって話だ。偽物は逃亡中で、近衛兵が全軍を上げて探してる。
そんな状態なのに、平常を装って人々との面会をこなすんだから、王様も本当に大変だと思う。
やっぱり、先のクーデターの残党が絡んでるんだろうか?
「お前の無事な姿を見て、多少なりとも顔色の変わる輩がいるか。それを見極める為にも、姿を見せる必要がある。休ませてやれなくて済まない」
王様には謝られたけど、「とんでもないです」って首を振った。
王様がいない間、何人かの人たちと面会したけど、緊張してばかりでほとんど何も話せなかった。代理の仕事もできず、申し訳ないのはオレの方だ。
オレの顔を見て、あからさまに驚いた人はいなかったけど、すっかり顔なじみになった隣国の使者は、王様の姿を見て、すっごく驚いてた。
「これが一緒に花火をと言うので、急いで戻って来た。素晴らしい催しに礼を言う」
王様の言葉に「それはそれは」って使者は笑い声を立て、それからオレの方を見て、にっこりと笑った。
「王妃様の憂いが晴らされましたなら、本望でございます」
優しい口調で頭を下げられ、いい人だなぁってホッとする。
勿論、政治とか思惑とか色々あるんだろうけど、例え打算があるにしても、悪い笑顔には見えなかった。
「花火、ありがとうございました」
微笑んでお礼を言って、使者さんの顔を見る。
花火の件を申し出られたときは、ご妾妃がどうとか言われたりして随分落ち込んだし、イヤだなぁと思った。使者さんの顔も、まっすぐ見つめ返すのにすっごく勇気がいったものだけど、今はもう平気だ。
と、そう考えて……ふと思い出した。
そう言えば、後宮の話ってどうなったのかな?
美しいお姫様や、たくさんの侍女たちは? 北の隣国の王女様は?
王様が何も言わないってことは、無事に解決したってこと?
――陛下は大層歓迎なされまして、後宮にお部屋を用意されたとのことです――
数日前、王様の手紙を持って来てくれた使者の言葉が、ふっと頭に浮かんで鳥肌が立った。
隣の玉座に堂々と座り、いつも通りの支配者の顔で公務をこなす王様を見る。
いつも通り、オレを強く抱いてくれたし、愛を囁いてくれたし、深い深い口接けをくれた王様。その真っ黒な瞳の奥にはやましさの影も何もなくて、いつも通りだったから、忘れてた。
思い出すと、すごく気になってモヤモヤしたけど、でも今は襲撃者の件を片付ける方が先なんだって、それくらいはオレにも分かる。
後宮のことは、宮殿に帰ってからじゃないと、確かめようがない、し。
今は黙って、王様を信じるしかできそうになかった。
午前中の謁見が終わった後、王様は側近の人たちと一緒に、執務室にこもってしまった。オレはその間、医務室に行って、シノーカちゃんやエール君、イゼル君を見舞うことにした。
シノーカちゃんは打撲だけで済んだみたいで、明日からは仕事できるって、元気そうにしてた。
元気なフリをしてるだけかも知れないけど、それには気付かないフリをして、細い両手をぎゅっと握る。
「庇ってくれて、ありがとう。お陰で無事でした」
精一杯微笑んで礼を言うと、「そんな……」って泣かれちゃったけど、まるっきり気休めって訳でもない。
あの時、シノーカちゃんが蹴り飛ばされるのを見て、ぐわーっとオレの中で、熱いものが高まった。守られるだけ、震えてるだけじゃダメだ、って。
後は無我夢中だったけど、あれで時間を稼げたから、王様の到着が間に合ったんだ。
だから半分は、身を挺して護ってくれた、シノーカちゃんのお陰。
後の半分は、エール君とイゼル君のお陰だ。
エール君とイゼル君は、ともに包帯でぐるぐる巻きになっていた。
傷のせいか熱が出ちゃったみたいで、イゼル君はぐったりと寝込んでた。
一緒に付き添ってくれたケディさんは、「寝てるだけですよ」って教えてくれたけど、でもちょっと心配だ。
「大丈夫だといいんですけど……」
ケディさんによく似た顔を覗き込み、額の熱さに不安になる。
と、いきなり後ろで、ドサッと何かが落ちる音がした。ハッと振り向くと、寝てたはずのエール君がシーツごと床に転がり降りてて、ビックリした。
「寝てて下さい、ケガ、ヒドイのに!」
焦って声をかけたけど、エール君は辛そうに息を詰めながら、ひざまずいて頭を下げた。
「はっ、もったいないお言葉です」
って。どんな状況でも真面目なのは相変わらずだけど、ムリなんてしないで欲しい。
どうしよう? 逆に気を遣わせちゃったんじゃ、お見舞いに来る意味、ないのかな?
オレがおろおろしてるのが分かったのか、キクエさんが大声で笑った。
「うちの子なんて、図体がデカくて丈夫なだけが取り柄なんですから! 王妃様が気にされることは、何にもありませんよ!」
そんな豪快な言葉と共に、息子であるエール君の頭を、手のひらでパチンと叩く。
ケガ人にそんな、って思ったけど、ケディさんも同様に、「うちのもそうですよ」って笑った。
「熱出しちゃうなんて、まったく。偉そうなこと言っても、まだまだ子供なんですよ」
2人のお母さんたちは、そう言ってケラケラ笑い、当の息子のエール君は、かしこまった格好のまま、反論もできないで赤面してた。
親子っていいなぁって、やっぱり思った。
キクエさんもケディさんも、エール君も……オレに対しての態度と、身内に対しての態度が全く違う。親を欲しがって泣いた時期なんて、とうの昔に過ぎちゃったけど、いいものは素直にいいなぁって思いたい。
エール君もイゼル君もオレと同年代だから、その母親のキクエさんやケディさんは、きっとオレの親と同年代になるんだろう。
物心ついた頃から、オレは旅芸一座の一員で……置き去りにされた子なのか、街で拾われた子なのか、知らされることは結局なかった。
オレのことなんて忘れて、どこかで幸せになってるかも知れないし、もうとうに亡くなってるかも知れない。
でも、もし――オレの生みの親がどこかにいて、そんで、もし会うことができたなら……こんな風に遠慮なくからかったり、笑ったり、愛情を込めて、ぺちんと叩いたりしてくれるのかな?
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