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変化 浩side
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目の前にはもうあの世にでも行ってしまったかのような安らかな顔。この爺さんは自分が癌だと気づいた時からどんな気持ちで生きてきたんだろうか
「なあ、陸」
「んー?」
陸は子供の様にくるくると座っている椅子を回している
俺はすでに配合しておいた薬を注射器に入れながら言った
「この爺さんは天国に行けると思うか?」
自分でも馬鹿馬鹿しい事を聞いたもんだと思った
「浩にしては面白い事言うね、情報によると滝正史は学歴も優秀、仕事もこつこつと真面目にこなして、上司からも部下からも信頼されてたみたいだよ。たぶんこんな上手くできた人間はそういないね、天国ぐらい簡単に行くんじゃない?」
キィッ、と椅子を止め陸は爺さんの顔を見つめながら言う
「浩はさ、罪悪感があるんだね。もう自分でも気づいてるだろうけど、人を殺すことを躊躇してる。最近は本当に柔らかくなったよね、壱くんの前でああなるのはいいけどさ、人殺すときはもっと前みたいにしようよ」
「前みたいに?」
「そう、報われない人のための人殺しだって浩は言ってたの覚えてる?」
「ああ」
「浩はちょっとだけ歪んだ正義感に駆られてた。でも俺は浩の考えは正しいと思った、もちろんボスだって。じゃなきゃ浩を雇ってない。ボスにとって浩は希望なんだよ、躊躇してこの仕事辞めるなんて言ったときには、たぶんボスは黙っちゃいないだろうね。」
「ああ、分かってる」
注射針をしわしわの肌に埋めていく
分かってる、俺はただ頼まれた事をしているだけだ、人のためにしてるんだ
それなのになんだ?罪悪感?嫌悪感?
ああ、なんでもいい、どうしようもなく早く壱に触れたい
爺さんは目を閉じたまま苦しそうに不規則に呼吸をしはじめ、やがて静かになった。そっと布団をかけ直し、俺たちは病室に背を向けて歩いて行った
「ひとつ聞いてもいいか?」
報告の電話を依頼者にし終わった陸に俺は尋ねた
「なに?」
「陸はなんでこの仕事をしようと思ったんだ?」
陸は葬儀屋で職種は違うが人殺しにはかわりない。同業者だ。俺より先にこの世界に陸はいた。昔からふらふらと不思議なやつだからと特に気にはしていなかったが、今は無性に知りたくなった
「面白いからだよ、それだけ」
この時初めて、陸の屈託のない笑みを見た気がする
「陸らしい答えだな」
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