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”-1~+1” 王子の最愛の人々 ‐13
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圭介が帰った後、三口めで、匙をテーブルに置いてしまったポトフの器を辛そうに眺める健に
静さんを連れて花見に行かないかと提案してみた。
花見って単語と、静さんが、ちょっと心に響いたようで。頷いてくれたから。
ちょっと、お洒落な服装に着替えさせて、健の首にはしっかりポーチを提げさせて、
宵闇の降りる頃、ゆっくりした歩調で、時々、手を繋いで、大学へ向けて進んでいく。
健の身に中学時代に起きた、記憶を失うほどの不幸な事件。
それは同級生5人による集団レイプ。
それ以外にも、理由はもしかしてあったのかもしれないが、
それ以降、健は中学時代のほとんどの記憶を失って、対人恐怖症のような心因性のトラウマを負った。
その関連で、独りで、公共交通機関等を利用すると、過呼吸やパニック障害を引き起こす危険があって
そんな健が、キツイ思いをして通学しなくていいように、
俺は、大学病院まで徒歩圏内のマンションを探して住むことにした。
まだ、別にも、発作を引き起こす危険因子は、色々あるんだけど。
落ち着いてきて、ここ数年、ありがたいことに発作は起きていない。
記憶が戻る戻らないは、さておき、発作はもう起きないと思いたいけれど
こればかりは神のみぞ知るっていうか、起こさないで済むように、
俺も、最近は、意識して、健本人も努力してる。
ここのところ、すっかり、独り言キングぶりも堂に入ったもので、
歩きながら、答えが返らなくても思いついたことを、次々、健に話しかける。
「あ、ちょっと風が出て来たね?寒く・・・・・え?」
健は、ふと吹いた突風に、立ち尽くす。
地上に散っていた無数の花びらが風で舞い上がり、それは健の髪をも大きく乱す。
ぼろっ、ぼろぼろぼろっ・・・
擬音がしそうなくらいに大粒の涙を、健は、静さんの死後、初めて流し。
大学病院まであとほんの少しの距離なのに、そこから動かなくなって、しゃくり上げて泣き出した。
健の静さんの遺骨の納まったポーチを握る手が、白く変色するほど握り締められて、
ぎゅうっと、胸に抱きしめられてて。
静さんが、そんなにしちゃ苦しいわよって笑ってるみたいに思った。
俺もたまらなくなって、健を抱き上げて、来た道を駆け戻った。
こんなに脆くて、美しい生き物を、誰の目にも、晒しては置けないって直感で感じた。
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