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”5” 王子と眠り猫 ‐8
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義父と話しながら、視線は、彼の背後の健に向いたままの俺を気遣って、百哉は健に話しかける。
「佐倉さん、柳百哉です。ボク、誠心誠意、あなたを看護しますね。宜しくお願いします」
ふっと、俺と丹羽の義父が、優しい笑みを湛え健の髪を撫でた百哉を見る。
俺達、目覚めているものにではなく、眠っている健にずっと話しかけてくれた。
「ボク、まだ、ナースになって3年生なんです。まだまだ未熟だけど、一番、この病院で時間があるんです。
だから、たくさん、あなたのお世話をしますね。下手くそだったら黙って寝てないで起きて怒って下さい。
こんな綺麗な眠り姫、眠ったままじゃ、うちの病院に茨が生えて、誰も来られなくなってしまうかも。
起きて下さいって、毎日、ボクが声をかけ続けますから、五月蠅かったら起きて下さいね」
完全看護で安心って、よりも。
彼のその、ごく自然にする対応に、俺達は、彼を信じるに足る人だと思った。
実際、百哉はその日から、普通に起きて生活している患者同様に、話しかけて、献身的に健を介護してくれ、
毎日、学校以外の殆どをここで過ごしたがる俺とも、たくさん話すようになった。
俺は、百哉を病院スタッフ達と同様に、渾名で呼び。
百哉もまた、俺とフランクに、敬語抜きで喋れる間柄になって行った。
目敏くなのか、弟に聞いたのか。
俺達が、結婚しているゲイカップルだってことを知っても、変わらず。
「好きな人と想い合う約束をしてることは素敵」だと認め、尊敬するとまで言ってくれた。
◇◇◇◇◇
「気をつけて。健くんのことは、ボクがちゃんと見てます。連絡もウザイくらいするね」
昨日の夕方、健を見守ってもらいたい意味で、病室に一緒に置いておかせて貰ってた
静さんの遺骨を受け取りと、健の顔を見に、来る直前に立ち寄ったら、
胸を叩いて、百哉がきっちり請け負ってくれた。
俺は、今日、静さんの50日祭の為に帰郷している。
昨日夜半から、佐倉家に泊まって。
今日の埋葬祭(仏式で言うところの納骨)、帰家祭(家神様に滞りなく終わったって報告)、
直会(これは、仏式のお斎ってやつだな)の一連の葬儀の終了と
明日の忌明けの清祓いと神棚封じを外す儀式をし、日常に戻る。
って、神道独特の法要をこなしに来ていた。
百哉からは、朝と晩に、ちょっと捻ったメッセージつきで健の写メが来た。
どうやら、今日は一般的に祝日で、ゴールデンウィーク前半の為か健の病室も賑やかだったようで
何組か来た見舞い客の中の誰かが、ネコ耳を買って来たらしい。
それをつけられての写真が添付されていた。
「百哉激写!至上、美、化猫、睡眠中の図」なんて、タイトルで。
ちょうど口元が緩んでた瞬間だったのか、稚い可愛い笑顔の健は
なにか楽しい夢でも見ているかのように見えて、ちょっと嬉しくなった。
辰三さん達の協力で、式次第準備は全部済んでいて。
俺は乗り込んで席に座るだけで良いようにしてて貰っていた。
「ただいま帰ったよぅ。今日はこれで終いじゃから、ここは寂しかろ、ワシの所に来るか?」
「いいえ、ここは俺の家ですから。平気です。今日は禰宜様まで送っていただいて」
禰宜様の送迎があったから、大好きな酒を我慢した辰三さんを
静さん達とかけがえのない時間を過ごしたリビングに通して、
ビールと直会で出した料理の一部を取って置いた物で、労うつもりだった。
「いや、ぼっちゃん。酒はいい。ワシは酒断ちして願掛けしとからの。水でええよ」
「何の、願掛けです?」
「健ぼっちゃんのお目覚めを願ってじゃよ。天女の呪いじゃったら、手ごわいでの。
一等大好きなもんを断たねばの、負けてしまうろう?のう」
冗談めかしたつもりの口元は笑ってても、辰三さんの目は真剣で。
「やはり、呪いだとか、思ってしまいますよね・・・」
「二十歳越えた者はおらんからな、そうなんじゃないかとは、思ってしまうのぅ。
昔で言う、元服じゃな、これも、佐倉は男の子でも美童じゃから、お小姓に望まれて
権力者に仕えたこともあるんじゃそうな。じゃが、元服させると、すぐに何らかのことで
亡くなってしまうからの、昔の知恵あるものは、15を越えても元服させなんだそうな。
17まで生きたらするとなるんじゃが、大概、その前に死んでしまっての。
ぼっちゃん、呪い封じもしとるんよ?知りゆうか?」
「呪い・・・封じですか。いえ、二人からは何も聞いていません」
ふと遠くを見て、ふふっと辰三さんは思い出し笑いをする。
「普通の七五三は、女が七と三歳で、男が五歳でするろ?
佐倉に生まれた男はな、七と三歳にやるんじゃが・・・女子の格好でするんじゃよ。
本家はもちろん、分家もする。前に家で働いとる佐倉の分家のやつ見たろ、あんなガタイのいいのまで
健ぼっちゃんは女の子よりも可愛らしかったが、あれはバケモノじゃったよ」
祟りをなしてる祖霊である天女に、「この子は女の子ですよ、男の子じゃないですよ」と
目を晦ませるために、している儀式なんだそうだ。
佐倉家、本家の最後の生き残りにして、20歳を初めて越えた男子。
きっと、静さんが存命なら、この今の健の状況を、呪いと思って嘆くんだろう。
俺も、医学を志すものなのに、そんな根拠のない迷信に気持ちを捉えられかけたのだから。
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