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4-1side嵐
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「雛!!」
人混みのなかで、きょろきょろと落ち着かない背中を見つけて、名前を呼んだ。思っていたよりも大きな声が出て、何人かがこちらを振り返る。
「やっば」
咄嗟に顔を伏せ、帽子を深く被り直した。
あぶねー。こんなところで騒ぎ起こしたらどうなるか…
人目につかないように、ちらりと視線を上げると、雛がまだ不安そうにきょろきょろしているのが見える。
なんで肝心の本人には聞こえてねーんだよ、馬鹿。
嵐は早足で、歩く人の間を縫って細い腕を掴んだ。細い体は、簡単にぐらりと傾く。よろけた体を受け止め、顔を覗き込めば真ん丸に開いた瞳と目が合った。
「っ…誰かと、思った」
突然腕を掴まれて驚いていた雛は、嵐を見ると安心したようにふにゃりと笑う。
その笑顔に、身体中の力が抜けていく。
本当に目が離せない。
雛の体を離し、レンズの入っていない眼鏡の位置を直してもう一度雛の手を取った。
「ごめん、ここじゃ目立つからとりあえず駅から出るぞ」
都会に慣れていない雛が迷子にならないように、なんて我ながら使い古された言い訳。
だけど雛は疑いもしないですぐに納得して。
「有名人なんだね」
そう言って笑う。
「…前見て歩けよ」
雛を光の下に導くための1ヶ月。
最後なんて言ったけれど、まだ未練がましく雛の笑顔に胸が高鳴ってしまう。
駅を出ると、秋空が広がっていた。
目を閉じて大きく深呼吸をした雛が、こちらを見上げて笑う。
「ふふ、らんちゃん不審者みたい」
黒渕の眼鏡に、黒いキャップ、ハイネックの黒いニット、ストレートのダメージジーンズ。ファンや知り合いに見つからないようにと、外出するときは大体この服装だ。すっかり慣れてしまって自覚していなかったが、確かに端から見ると怪しい人物に見えるのかもしれない。
学生時代とはがらりと変わった身なりをしている嵐を指差しながら笑う雛。丸い目を緩めて笑う姿は、27歳の成人男性には到底見えない。
陽だまりのような雰囲気を纏っている雛は、芸能界で生きる嵐から見ても下手なアイドルや女優より可愛い。
道行く人が雛をちらちらと窺っている。
「…お前も目立ってるけどな」
こんなんで、今まで本当に大丈夫だったのかよ…
まだにこにこと笑っている雛の手を離さないように、小さな手を握る手の力を強めた。
今日は雛にどんな世界を見せようか。
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