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3-3side雛
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「大学かぁ」
嵐と分かれて、病院までの道を一人で歩きながら雛は呟いた。
最近は梅雨も明けてすっかり世間はすっかり夏真っ盛りだ。
うだるような暑さの中で汗一つかかずに歩く雛。
頭の中を巡るのは、最近ほとんど顔を出していない学校のこと。正直、雛にとって大学など辞めたって困ることはない。
けれど、最愛の彼の笑顔を思い出して思い直す。
「途中で辞めたって大介さんが知ったら、がっかりするもんね...行かなきゃ」
僕がしっかりしなきゃ。
もう一度、気合を入れ直して病院へ向かう雛。
心はとっくに限界を迎えている。それでも、それを認めてしまったらもう二度と動けなくなってしまう気がして。今は、僕にできることを頑張るんだ、と心に誓って。
大介の病室に入ると、大介と同じ優しい雰囲気を纏い、最近少し白髪が混ざり始めた女性がいた。
「あら、雛ちゃん。おはよう」
女性は雛が入ってきたことに気付くとふわりと花が咲いたように微笑む。
「明子(アキコ)さん!おはようございます」
にこにこと笑みを浮かべたまま雛の元に歩いてくるのは明子...大介の母親だ。
雛と同様毎日大介の見舞いに訪れている明子はいつの間にかすっかり仲良しになっていた。
「毎日ありがとうね」
事故の後、明子が雛と大介の関係を知っても尚、雛に変わらず接してくれる。大事な息子が僕なんかと付き合っているなんて、どんな言葉で罵られたっておかしくないのに。
優しい明子と話す時間は雛にとって心が安らぐ時間だった。
「いえ!僕なんてこうやってここに来ることしかできないですけど...」
「そんなことないわ。大介は幸せ者よ。幸せ者で大馬鹿者...こんなに愛してくれる人がいるのに眠りこけてるんだから」
雛の頭を撫でて悪戯っぽく笑う明子に、苦笑する。
明子はどうも雛のことを実年齢より年下だと思っている節があった。
僕、こんななよなよした見た目でも大学生なんだけどなぁ。
「本当に、寝坊しすぎですよね」
「困ったものね~」
ころころと笑う明子は大介の前で決して涙を見せたりしない。よく笑う人ほど、つらい思いをしているというのが本当なら明子は毎日どんな気持ちで笑っているのだろうか。
「それじゃ、雛ちゃん私今から先生のところに行ってくるから」
「あ、はい」
「ゆっくりして行ってね」
「はい」
「また後でね」
手を振って病室から出て行った明子を見送り、雛は大介の側へ向かう。
「大介さん、おはよう」
もちろん大介から返事はない。
「今日も暑いね。すっかり夏だよ」
ベッドサイドのパイプ椅子に腰かけた雛は、大介の顔を覗き込み微笑みかけた。
今日は、どんな話を聞かせてあげよう?
「...って空調の効いた部屋にいる大介さんには関係ないね。らんちゃんなんか毎日暑い暑いって文句言ってるよ。」
窓際には先日嵐が置いていった花が、綺麗に咲いている。それを見てふと昨晩のことを思い出した。
「...大介さん。昨日ね、らんちゃんに好きだって言われたの...もしかして大介さん気付いてた?僕、今までそんなこと思ってみたこともなくて...知らない内にたくさん...たくさんらんちゃんを傷付けてきたんだと思うの...」
嵐の苦し気な顔が思い浮かぶ。
「僕、どうしたらいいのかな...」
大介が返事を返してくれることはなかった。
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