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とある弟のブラザーコンプレックス②
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しょぼんとした真尋は俯きつつも真白の様子を窺って上目使いで見てくる。小さな声で「え~」と言っているようだ。子どもの頃からのこの癖。別に怒っている訳ではなく、諭しているだけなのだから、そんな風にしないで欲しいと思う。しかしどうにも真尋は怒られている感の方が勝っているようだ。これだといつもと同じになってしまう。
もう一度真白は居住まいを正して真尋に諭す。
「迷惑じゃないけれど、いい? 真尋。俺は怒ってるんじゃないんだよ。真尋はもう大人なんだからちゃんと一人でも何でも出来るようになってもらいたいんだよ。18歳になったんだから世間はお前の事を大人の一員としてみてる。いつまでもなんでもして貰えるって思ってたら痛い目みるよ? そうならないようにして貰いたいから言ってるんだから。心配してるから言うんだよ。わかってくれない?」
この時代は18歳になったら選挙権も酒もタバコもOKになる。タバコを吸う人間はほとんど皆無に近くなったし売っている店を探すのも大変なのだが、もう法律自体が古くなってきているのだろう。大人としての自由と権利を手に入れたのだ、これには必ずセットで責任もくっついくる。いつまでも大人が守ってくれるわけではない。
「・・・分かった・・・けど・・・」
「けど?」
「・・・俺・・・一週間に一回は・・・兄さんの匂い嗅がないとたぶん死ぬぅーーー!!!!!」
そう叫んだ真尋が真白を押し倒した。真白は後頭部をフローリングに強かにぶつけ、目の前に星が飛んだ。馬鹿な弟は真白の首筋の匂いを嗅いでいるが、はたっと一瞬動きを止めた。そして顔をあげると真白の顔を押し倒したままジッと見つめ呟いた。
「・・・違う匂いがする」
お前は本当に犬か!!!と思うと同時に、
その一言に真白は心臓が飛び出そうなぐらい驚いたが、どうにか表情には出さなかった。たぶん、佐伯の香りだろう。香りが移るぐらい傍にいた人は佐伯しかいない。ここで変にうろたえると、この弟はたぶんしつこく聞くだろう。それだけはご免だった。先程、甘い時間を過ごした事や佐伯の事を話す気はない。これは確かな何かがあるわけではないが本能が気付かれるなと叫んでいるような気がした。弟には知られたくはない。知られてはいけない。そう本能が叫んでいる。
「・・・真尋・・・いいかげんにしなよ・・・早く退け!」
真白はいままで出したことがないような低い怒りを含んだ声を発する。たぶん頭に血が上ったのだろう。血流の音が聞こえてくるような気がした。こうなったら殴り合いも覚悟の上だ。だが真白はいきなりマウントポジションを取られた状態からのスタートで決して歩が良いとはいえない状況だった。しかし、今まで聞いたことがない真白の声と態度に真尋は怯んだ。
「え・・・! あの、ご、ごめんなさい・・・」
蚊の鳴くような声で言うと、ササッと真白の上からどいた。真白は真尋を睨みながらゆっくりと体を起こす。どうやら頭だけでなく、背中も打ちつけてしまったようだ。肩甲骨あたりがズキズキと痛む。この弟、どうしてくれようか・・・真白はいつもよりも怒りを感じている。たぶん。これが怒るということか。体がなんだかブルブル小刻みに震えてるけど、大丈夫なのこれ?興奮しているはずの頭だが妙に冷静さもある。今日は初めての感覚をよく感じる日だ。
でもなんか気合で勝った?
冷静さが勝ってきたようで、真尋を観察する。真尋は真尋で上目使いで見上げる仕草はいつもと一緒だが、いつものように言い返してこない。いつもなら、ここで「えー」とか「だってー」が始まるのだか、さすがに今日はこのまま黙って大人しくしているだろう。ここでダメ押しをしておこうかと、真白は冷たく言い放った。
「今から実家に帰れとは言わない。今日は泊まっていってもいいけど・・・もう不必要にここに来ないで。分かった? 真尋?」
「・・・はい」
蚊の鳴く声よりも小さい返事に、真白は小さく溜息を付く。
・・・・ホントに疲れる。
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