アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
8月3日のモーニングコーヒー
-
朝の5時半。
アラームが鳴って、窪田が俺の腕の中でモゾモゾと動いた。
「…ん」
「窪田、おはよ」
「……」
窪田は半分閉じたような目でフラフラと起き上がり、床に脱ぎ捨ててあった服をかき集めだした。
一度スーツを取りに帰らないといけないから、窪田は俺より早起きしてここを出ないといけない。
察しの通り、俺は誕生日ケーキの代わりに窪田をいただいたわけで。
仕事があるから本気は出せなかったが、1ヶ月以上ぶりのニャンニャンにありつけた俺は、8割がた満たされた。
今こうやって、ベッドで寝転がりながら窪田のキスマークだらけの背中を見上げるのも至福だ。
「…なぁ窪田。プレゼントのバングル、どうやって調べたんだ?」
あれは新進気鋭のデザイナーのブランドで、まだまだ知名度は低い。
しかもその中で、俺が〝窪田に似合いそう。買ってやろうかな〟と思ってチェックしていたバングルを、窪田はピンポイントで選んでいたわけで。
「……別に」
窪田は俺に背を向けたまま、素っ気ない態度で答えた。
ニャンニャンした後、窪田は恥ずかしくて機嫌が悪くなるらしい。
バングルを選んだことが偶然なのかなんなのか気にはなるが、今の窪田は答えてくれなさそうだ。
俺もベッドから起き上がって、パンツだけ履いた。
「コーヒー飲んで行けよ」
「……いらん。俺のことはいいから、もう少し寝てろ」
「平気だって」
そう言って窪田の横を通り過ぎ、俺はキッチンで湯を沸かしはじめた。
「……窪田ぁ。ちょっと思ったんだけど」
「……」
窪田は答えないが、耳だけはこちらを向いているようだ。
「一緒に暮らしたら便利だと思わねぇ?」
「……っ!ゲホッ!ゴホッ!!!」
窪田がむせた。
俺は火から離れて、屈み込んだ窪田の背中をさすった。
「そんなに驚くことか?」
かなり良いアイディアだと思うのだが、窪田にはそうでもないらしい。
「あ、当たり前だろ!色々と会社にバレるだろ」
「……………………………………………………………………………………はい?」
俺は瞬きも忘れて窪田を凝視していた。
なんか、おかしくないか?
「いや、でもお前…。俺とのことが噂になってても平気そうだったし」
「噂と俺たちが一緒に暮らすことは関係ないだろう」
「なんで。どうせ噂になってて、しかも窪田は平気なんだろ。だったら一緒に暮らすのが会社にバレてもよくないか?」
「は?」
「んぁ?」
「………………」
「………………」
俺と窪田はしばらく見つめあった。
話がかみ合っていないようだ。
窪田は腕だけ通していたカットソーを頭からかぶり、裾を整えると言った。
「噂といっても、アレだろう?俺は最新型ロボットで、俺の人工頭脳を作ったのは橘だっていうやつだ」
「……はい?」
「佐脇部長の時は、俺は1億円のロボットで、佐脇部長がオーナーだって噂されていたんだ」
「……そんなの、会社の七不思議レベルじゃねぇか」
「だから気にするなと言ったんだ」
呆然としていると、キッチンでヤカンの蓋がカタカタと鳴りはじめた。
動けないでいる俺の代わりに窪田がコンロの火を止めて、棚からマグカップを取り出した。そして、慣れた様子でペーパードリップのコーヒーを淹れ始めた。
「…………」
俺は、脳裏に浮かんだ後輩の山田の顔に殺意を覚えた。
あいつ…。
こんな噂をもったいぶって隠してたのか。
「で、でも!ルームシェアってことにして一緒に暮らすとか、どうだ?楽しいぞ?」
「嫌だ」
「毎日でもニャンニャン出来るぞ?」
「……」
窪田はマグカップを2つ持ってキッチンから戻ってきた。そして、マグカップをひとつ俺に差し出し…受け取ろうとした俺の手をすり抜けて、俺の頬にマグカップを押し付けた。
「あっつ!あーーーッッッッッつ!!!」
払いのけたいけど、そうしたら窪田も火傷する…という俺の心理を利用して、窪田はグイグイと押し付けてくる。
涙目の俺に、窪田はハッキリと言い放った。
「俺は、それがイヤだ」
でも俺はめげない。
「今日、俺の誕生日なのにな⁈せめて考えてみる、くらいは言って欲しいんだけどなっ」
「…………」
「結果はどうあれ、俺とのことを真剣に考えてくれるだけでもさ、嬉しいもんなんだよ」
俺の言葉に、窪田は動きを止めた。
ジッとして色々と考えているようだ。
俺はとどめを刺した。
「昨日、さびしかったんだよなぁ。休日なのに1人でブラブラ。何にもできずにひとりぼっちで…」
無表情の窪田の眉間にグイグイとチカラが入っていく。
「〜〜〜!わかった!くそ、考えるだけだ。いいな?」
「いい!それで十分だ!」
保留にしておけば、あとは俺が頑張って口説くだけだ。
もちろん相手は窪田なんだから長期戦も覚悟している。
俺は窪田の頬にキスをした。
月曜から寝不足だけど、また1週間がんばるぞ。
episode.1
窪田くん、橘くん生誕祭を開催する
END.
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 127