アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
8月26日の秘密の××
-
「金曜の夕方には四国から戻ってくるからさ、夜は一緒にメシ食おうぜ」
「それなら土曜の昼に会えばいいだろう」
窪田は考える様子もなく即答した。
昼休みも、もう少しで終わる時間。
窪田は春日さんや営業部とのメシを食い終わり、1人でフロアに戻ろうとしていた。
俺はそれをつかまえてデートの約束を取り付けようとしているのだが、窪田はなんだか素っ気ない。夜のデートを警戒しているのかもしれない。
「なんだよー、用事でもあるのか?」
「ある。世界ネコ歩きを1巻から観ないといけない」
「DVDなんか俺と観ればいいだろ!」
思わず出た俺の言葉に、窪田は立ち止まった。
「…DVDなんかだと?世界ネコ歩きを〝DVDなんか〟呼ばわりするヤツとは、一緒にいられないな」
「ぐぬぅ」
そんなの屁理屈だろ。
窪田が嫌がるのは違う理由があるからだ。
窪田は再びエレベーター前までさっさと歩いて行く。
俺はあたりを見回した。
昼食を終えて、皆ぞくぞくと自分の仕事場へ戻る時間帯なのだが、ちょうどエレベーター前以外はひと気が途切れていた。
絶好のチャンスだ。
「窪田、こっち!」
俺は窪田の肩を抱いて、グイグイと押した。
「⁉︎」
窪田は突然のことに驚いて、何もできない。
エレベーターを待っている社員の後ろをさっさと通り過ぎ、もう一度あたりを見回す。
誰も俺たちの方を見ていないな。
「たちば……!」
名前を呼ぼうとした窪田の口を手のひらで塞いで、俺は非常階段の扉を開けて中に隠れた。
すると途端に窪田が暴れだした。
「ちょっ、窪田、落ち着けって!」
「またここか!黙れっ!離せ!」
「警戒しすぎだって!ちょっとくらい話しさせろよ」
閉めたばかりの扉に窪田が手を伸ばすが、俺は窪田を後ろから抱きしめて、その手を掴んで阻止した。
「なぁ窪田」
「なんなんだ」
「一緒にいたいと思うのは俺だけ?」
「!」
身体がぴったりひっつくように、俺は窪田をギュウギュウに抱きしめた。
そして首筋に頬ずりすると、くすぐったそうに窪田が首をすぼめた。
「やめろっ!ここは、会社…」
「だからこっそりしてるだろ?」
「俺は、嫌だ…」
「俺は会える時にちゃんと会って、窪田とこうしていたい」
窪田が身をよじって抵抗する。
それでもしつこくスリスリしていると、やがて窪田の身体から力が抜けて、小さなため息が漏れた。
そして、ボソリと一言呟いた。
「一緒にいたいのは、お前だけ…じゃない。だけど…」
窪田の耳は真っ赤だ。
そう。本当はわかってる。
窪田だって俺のことが好きで、スキンシップを取りたいと思ってくれてる。
だけど、いつも照れや理性が邪魔をしている。
窪田にとって、照れや理性を吹き飛ばすのは大変なことだ。
ネコのようにひとりで自由気ままに暮らしたいと思っていた窪田が、俺に心を開いてくれているだけでもすごいことなんだよな。
俺が求めているのは、それより更に距離感の近い、もはや重なり合うような関係だ。
わかってる。
「無理に手ぇ出したりしないから。ただ、お前と一緒にのんびり過ごしたいんだよ。出張から帰ってすぐにお前に会えるなら、俺は張り切って行ってくる」
「 」
「……ん?」
窪田が、何か小さな声で呟いた。
だけど俺には聞き取れなかった。
窪田は無表情なのに顔も耳も真っ赤だ。
「金曜の夜、空けといてくれるか?」
「…」
俺の問いに、コクリと小さく頷いた。
「やった」
窪田の、精一杯なOKサイン。
俺は窪田の肩を掴んで向かい合った。
非常階段はめったに人が寄り付かない。だけど扉の向こうのすぐそばで、人の行き交う音がする。
これは小さなスリルだ。
俯いていた窪田の顎に指をかけ、上を向かせた。
すると、キツい視線の瞳が俺を見据えた。
「……窪田」
「……」
窪田は動かない。
だから、そっと窪田の唇にキスを……。
「……ちょ、う、し、に、の、る、な」
「いでででででででで!」
…………できるかなと思ったんだけど、窪田が俺の両耳を掴んで押さえつけてきたので、未遂に終わった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 127