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10月15日のside窪田くん、勘づく
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今朝は大失敗を犯した。
俺も、夏川も。
夏川は俺の机に納豆ごはんを仕込み、俺は夏川の机に先日夏川に仕込まれたカレーを熟成させて突っ込み返しておいた。なおかつ、俺のは引き出しが開くとインド人がかったるい声で〝ナマステ〜〟と挨拶する仕様だ。
夏川の机に取り付けた小さなスピーカーとセンサーは、そう簡単には見つからない。パソコンで入力し直せば、いろんなパターンの音を鳴らすことが出来る。
やりすぎる前にスイッチで電源を落とせば、しつこく何度でも使えるという優れた仕返しだ。
しかし、だ。
俺たちは油断した。
いや、やりすぎた。
朝からフロア内は納豆とカレーの匂いが漂い、俺と夏川がそれを片付け始めた時に、突然春日さんが出勤してきたのだ。
「君たちね、机も会社の備品なんだよ。それに他部署からクレームがきている。ある程度はコミュニケーションなのかもしれないけれど、度がすぎるようなら俺も立場上かんがえないといけない」
今、ミーティングルームで、俺と夏川は春日さんにこってりと絞られている最中だ。
夏川は俺の隣で顔面蒼白になっている。
バカめ、覚悟がないなら嫌がらせなどするな。
昔から思う。
イジメがバレた時のリスクを考えず、覚悟もせずに弱い者をいたぶる奴は、頭が悪い。そういう奴はいつかはいじめられる立場に逆転する。
「申し訳ありませんでした。夏川さんに何をされても、2度とやり返したりしません」
俺の言い回しに夏川が息を飲み、ものすごい顔で俺を睨んだ。
「夏川くんは言うことないの」
夏川に対して、春日さんは冷ややかだ。
「…申し訳ありません」
「それだけ?」
「……」
夏川は何も言えず、黙ったままだ。
春日さんはしばらく夏川の言葉を待っていたが、やがてため息をついてあきらめた。
「とりあえず2人とも、反省文を今日の夕方までに。ロボ田くんは午後は俺と物流センターで会議だから、それまでに出しなさい」
「わかりました」
「…わかりました」
「次はもっと厳しい処分にするから。特に夏川君、頼むから俺をがっかりさせないでくれ」
春日さんの言葉に、夏川の顔色はさらに悪くなる。
拳を真っ白になるまで握りしめ、夏川はもう一度頭を下げた。
「申し訳ありません…」
「今日はもういいから、君たち出て行って」
「失礼します」
俺と夏川は静かにミーティングルームを出た。そしてドアを閉めた途端、夏川は俺の腕を掴んで、強引に廊下突き当たりの非常階段に引っ張り込んだ。
くそっ、非常階段は縁起が悪いのに。
「……夏川さん、仕事に戻りましょう」
「うるっさい、黙れ」
動きを封じようと、夏川は俺を壁に押し付けた。
スーツが汚れるじゃないか。
ふざけるな夏川。
「…戻りましょう」
俺は無表情で夏川を見上げた。
夏川は憎悪のこもった目で、俺を睨む。
「…しばらくは休戦ですね」
「黙れっつってんだろ!」
「…………」
夏川がギリギリと音を立てて歯を食いしばった。
怒りで興奮しているようだ。
どうしてここまで俺に怒りを向けるのか。
どうして俺は、他人を不快にさせてしまうのか。
慣れているから平気だ。
しかし、理由くらいは知りたい。
「ロボ田がウチに異動してからメチャクチャだ。なんなんだよ、お前。不愛想でコミュ障のくせに、春日さんに気に入られて。お前がいなかったら俺が春日さんと組めたのに…何なんだよマジで」
夏川はそう言って、俺の両肩を掴む手に力を込めた。
春日さんじゃないが、お前には本当にガッカリだ。
何なんだよとは俺のセリフだ。
「………………八つ当たりか。お前が春日さんと組めないのは、お前の能力不足のせいだ」
いつもなら思うだけで済むことが、気がついたら俺の口から漏れていた。
「!!!」
「うっ」
夏川が俺の喉を片手で掴んだ。一気に圧迫されて、息もできなければ、血液もせき止められて、顔が熱くなる。
こいつ、キレた⁈
「な…つ…か……っ」
「わかってるんだよ、そんなのは!」
「……っ」
「だからって、お前が優秀なわけじゃない。春日さんがお前を本気で気に入るわけじゃない!」
苦しい。
俺は夏川の手に爪を立てて抵抗した。
メチャクチャ殴ってやりたいが我慢だ。
キリキリと力を込めると、夏川が顔を歪ませて俺から離れた。
「……ってぇ」
「っ、はぁっ、…はぁ」
夏川の手の甲に、赤く爪痕が残った。
「くそぉ…」
夏川がその場にへたり込んだ。
「夏川…」
「お前のせいだ」
「……」
「春日さんに嫌われたら、お前のせいだ……」
たかが上司だろう?
しかも春日さんだ。
多少嫌われたところで、何か仕事で不利になるようなことはされないだろう。
俺はここまで上司を気にしたことがない。
ここまでは………………。
……。
あ…。
俺の中に、夏川の姿に重なるものを見つけた。
わかる。
すごく、しくっくりときた。
「…夏川さんは、春日さんに惚れてるんですか」
俺の言葉に、夏川は顔をあげた。
何も言わないが、交わした視線はとても驚いていて。
次にはクシャッと崩れた表情を、夏川はすぐに伏せて隠してしまった。
隠しきれないのは真っ赤な耳と、硬直した身体。
全てが語っている。
わかった。
俺にも理解できた。
夏川は、春日さんに惚れているんだ!
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