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まだ俺が小学校に上がる前の話だ。
近所に犬を飼っているお宅があって、そこの犬に追いかけられて噛まれたことがあった。
それ以来、動物が駄目なのだ。
ハムスターを手のひらに乗せるだけで手に汗をかいて手が震えるくらいに。
見る分には可愛い。
犬が腹を見せて撫でろ、って催促する姿は可愛いと思うし、鳥が飼い主に撫でられてうっとり目を細めているのも、さっき猫が弟に擦り寄っているのも羨ましいなって思う。
だけど噛まれたり爪を立てられるのを想像するとどうしても駄目なのだ。
「最近こっち帰って来ないのってゆうたが原因なの。」
「いや、そういうわけじゃないけど…。」
「おい、ガキ。そいつ持って帰っていいぞ。」
語尾を濁して否定すると弟が迷いなくそう言い切った。
「お前何言ってんの…。」
さすがの建太くんも困った顔をしていた。
「ゆうたくん可愛いよ?ゆーとも触ろうよ。」
「うぅ…。」
弟が「連れて帰っちゃ駄目かな」って言った時、真っ先に思ったのがおふくろが許してくれるかどうか。
おふくろは弟に甘いからなんとかなるだろうと安易な判断をした。結果はご覧の通りなんとかなった。
その次に思ったのは、「俺がこっちに帰ってくるのはそんなにないからまぁいいか」。
「食ってる時なら大人しいから。」
「うー…。」
弟に「慣れてもらわないと困る」と言われ、「じゃあ触るところから始めよう」ということになり、今に至る。
猫のおやつは液体状のもので、封を切って直接あげるタイプのものだった。
建太くんがおやつをあげている間に猫の背中を撫でる、というミッションが科せられ、弟と建太くんに見守られ引くに引けない状況が作られた。
まさかこんなことになるとは。
いい歳してこんな可愛い生き物を怖がる姿を見せて建太くんに格好悪いと思われたくなくて、すでに手汗でべたべたな手を猫の背中に伸ばす。
いや、触れない時点でもう格好悪いか。
あとちょっとで触れそう、というタイミングでそれを勘付いた猫がこちらを振り返った。
「わあ!」
勇気を出して伸ばした手を引っ込める。
「大丈夫だって。ほら。」
弟の手が猫の背を撫でると猫は再び食事を再開し始める。
猫を撫でるその手には何本かの赤い線。
傷だらけのその手を見るととても大丈夫には思えない。
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