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12ページ目番外編 4
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相変わらず無口無表情。何を考えているかさっぱり分からない。だけど会った頃と比べたら随分変わったと思う。以前に比べたらなんとなく雰囲気が柔らかくなったような気がする。その証拠に、社に話し掛ける奴が増えた。
聞いたことには答えるし、貸したものは何でも律義に目を通して返す奴だから俺と仲のいい友達がこの間AVを貸し付けて反応を楽しんでいた。社が意外と話しやすい奴だと知った北里は調子に乗ってたまに絡むようになった。
「社、この中で誰が好み?」
窓際の席で一人本を読んでいた社にアイドルが水着を着て写っている雑誌を持って訊ねていた。社は本から雑誌に目を移し、じっと見つめてから「こいつ」、と表情を変えずに一人を指差した。俺がこのアイドルを好きなのか、と尋ねたらそうではない、と答えた。
「じゃあこの中だったら?」
北里が一ページめくり、再度社に訊ねる。あまりしつこくすると機嫌が悪くなる、というのを最近知った。
「北里、もう行こ、な!!社、邪魔して悪かった!」
こいつが鈍感すぎるのか、常に怒っているように見えるからか。それに気付く奴はクラスには多分俺だけだ。
自分の意思がない奴、というのが誤解だと知ったのは夏休みが明けて文化祭でクラスの出し物を決める時だ。体育祭で出る種目に関しては「余ったやつでいい」と言っていた社が文化祭の実行委員を押し付けられた俺に、女装は嫌だと断固拒否を示してきた。困ったものだが交換条件として誰も就きたがらない服飾係に就くことを提示し、交渉成立。結果俺も助かったのだった。
真面目な社はよく頑張ってくれた。材料費の計算をしてまめに連絡をくれたし、クラス全員分の衣装を2日徹夜して仕上げてくれたらしい。同じ服飾に就いた女子もテスト勉強の時間を削ってスカートの製作に励み、進級できなかったら俺のせいだ、と目の下を黒くして理不尽なことを言ってきた。
文化祭当日、一番張り切っていた学級委員が風邪をこじらせて欠席した。却下になった案件の「女装喫茶」を一番推して、実行委員として臨んだじゃんけんに敗退した時に一番俺を責め、ただ「フランクフルトを売る」という意見に「女装を取り入れる」としつこく意見してきた委員長。気の毒な気もするが仕方ない。学級委員の仕事の他に彼は当日会計を務めるはずだったから、代役をどうするかで大騒ぎだった。
クラスメイトはスカートのみだが委員長にはワンピースが用意されていた。服飾の女子がせっかく用意したのだ。一番時間もコストもかかっているから着ないのは勿体ない。そこで目を付けられたのはクラスで唯一女装を免除されていた社。嫌そうな顔をしていたがすんなりと受け入れていたから驚きだった。
メイド服に身を包んだ社は終始不機嫌だった。それでもおとなしくウィッグは付けていたし、化粧もおとなしく女子にやらせていた。元々顔は綺麗だし、同じ男かと思うくらいメイド服はよく似合っていた。似合う、可愛い、綺麗等の称賛は不快だったのだろう。クラスメイトに囃したてられる度にどんどん眉間に皺が寄っていった。いつかキレるんじゃないかと、見ている俺がハラハラした。
「あれ、お前交代だろ?」
「こんな格好で校舎歩けるかよ。」
午前の部が終わったと同時にクラスから姿を消した社が戻ってきて空席になっていた2つある会計の椅子の一つに腰を下ろした。少し客がはけた時に聞いたのだが、写真を撮られたり声を掛けられて、物売ってる方が絡まれなくて済むだろ、とのことで戻ってきたらしい。俺は欠席した委員長の仕事があったし、午後から会計を務めるはずだった委員長が休みだから大助かりだった。
「誰かと約束してんの?そっち行かなくていいの?」
社がマメに使い古されたガラケーを見ているのが気になって声を掛けた。
「まだ来てないからいい。」
すっかり客足が落ち着いた頃。「悪い、抜ける」と一言残し、早足で教室を去って行った。手が空いて暇になったクラスメイトが彼女だろう、と話をしていた。プライド高そうだし、彼女が来るなら女装姿など見られたくはなかっただろう。てっきり俺も彼女だろうと思っていたのだが、しばらくして戻ってきた社の右側に居たのはお揃いのピアスをした男。社が「兄貴」って叫んでいたから社の兄だったのだろう。
「なんかすごかったね…。」
「うん…。」
一体何にそこまで腹を立てていたのかは分からないが、社が声を荒げているのも、ここまで怒りを露わにしているのも初めて見た。社が兄の手を引いて教室を飛び出した後、数秒の沈黙があり、みんな呆然としていた。
文化祭終了時刻になり、来客は校舎から姿を消し、クラスメイトがぱらぱら教室に戻り始めても社は戻って来なかった。閉会式の時間が近づいても帰って来ない社を、クラスメイトが俺に探しに行って来いと言う。実行委員だから、じゃなくて社の保護者か何かだと勘違いされている気がする。社の機嫌が悪くなければ構わないのだが。不機嫌な社は怖い。みんな俺に対する扱いが酷いと思う。
社の機嫌が少しはマシになっていればいいなと思いつつ、先ず靴を見て来ようと靴箱に行った時、すっかり制服に姿を改めた社とその兄が居た。社が兄の背中に腕を回していて、兄はまるで子供をあやしているかのように片手で背中を叩いて応えていた。声が掛けづらい。どう反応すればいいのか分からず、その場に佇んでいたら社の兄と目が合ってしまった。口元に笑みを浮かべて小さく会釈されたものだから俺も釣られて頭を下げた。すぐに抱擁を解き、一言二言何かを話をして、板の分高い位置にある社の髪をくしゃくしゃに乱してから昇降口を後にしていた。
「…悪ぃ、もしかして邪魔した?」
兄の姿が見えなくなるまで見送っている社の後ろ姿はどこか寂しそうだった。社がこちらを振り向いたタイミングで声を掛ける。相変わらず機嫌は悪そうだったけれど、先程よりかはだいぶマシで安心した。
「うん。」
無表情で遠慮なく頷かれて軽くショックを受ける。
「んなこと言ったってそろそろ閉会式始まるぞ!?」
社を急かし、体育館に向かおうとした時靴箱に置かれている自販機が目に付いた。
「あ…社、ジュース奢ってやろうか。」
いつもだいたい売り切れているいちごみるくがこの時たまたま有ったのだ。衣装作りから会計の仕事までよく頑張ってくれて、ものすごく助かったからお礼にと思ったのだが「いらない」と一蹴された。
「はぁ!?なんで!お前いちごみるく好きだろ?」
「好きなんて一言も言ってないでしょ。閉会式遅れるよ。」
本当にこいつは可愛げがないし、よく分からない。呼びに来てやった俺よりも前を行く社の背中を急いで追った。
・ ・ ・ ・ ・
お粗末さまです!
兄に嫉妬させる、兄が帰ってきて上機嫌な弟、弟の女装、リバ(兄攻め弟受け)、弟の過去話等々、詰め込み過ぎてかなりまとまりなくだらだら長くなってしまいました。
文化祭の話は弟に女装させる口実なのでした。つまりオマケです。ここぞとばかりに弟の友人目線の話も詰め込ませていただきました。弟の学校生活について書きたかったのですが、自分語りするタイプじゃないので第三者の友人目線です。以前から書きたいと思っていて、ずっとタイミングを窺っておりました。
以上、社弟に振り回される友人・中澤くんの話でした。お付き合いいただきありがとうございました!
たつみ
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