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バイト先のバーは、新宿駅の近くにある。通りから少しズレたところにあるので、昔からの古株さんの客が多い。
店内はゆったりとしたオーナー好みのジャズが流れ、光の照明は、淡い青だったり水色だったり。
静かで、品のある店。
それからお客さんに相談をふっかけられているオカマがうちのオーナーだ。
「最近多いですね、宿人先輩」
南国風味のマリブカクテルを作りながらオーナーに尋ねると、鼻高々しく返事が返ってきた。
「それがあの子、注目の新人声優らしいのよー」
一瞬耳を疑った。
「マジですか」
「まじまじ、大まじよ」
オーナーは嘘をつかない。
「さっきもここに彼の特集組ませてください!って雑誌の取材が来たわよ~。事務所も彼にかなり力をいれてるらしくて」
本業が忙しくなるので先輩は来月でバイトを辞めるんだとか。オーナーがぶつぶつ言っている。
いくら新人声優の給料が安いからといっても売れっ子は別だ。
最近、バイトと養成所のことで頭がいっぱいいっぱいで、最新の情報を知らなかった。
「確かに。俺、宿人先輩は伸びると思ってました。......でもちょっと寂しいです」
羨ましいとか、尊敬とかそういうのも込めて。
ただ、先輩はハマり役が来れば必ずヒットするだろうと養成所のスタッフや先生方が話していたのを聞いたことがある。
「でもそうね。次はきっとマキノちゃんが出ていくもの。私なんかもっと寂しいわよ~!」
たまにオーナーは根拠のない未来を予言する。今はなんて返せばいいか迷うが、大体あたっている。
「俺は暫くここにいますよ。この店もなかなかに好きなんで」
「あら~!嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
そう言ってオーナーは俺の頭をわしゃわしゃしてきた。
「ちょっ、やめて下さいよー」
「いいじゃないの。今だけなんだからー」
いつのまにかバーにいた古株さんは俺達を見て、微笑んでいた。
いつものこと。
でも少し前まで。ここには宿人先輩もいて、一緒に笑ってたのになあ。
なんて思う。
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