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オレが東京へ来た日のこと
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(カガリの思い出話です)
大阪の田舎から出てきた日、まずオレらは青春の始まりに6畳一間にて荷物整理をした。
部屋に風呂もトイレもついてない、ボロアパート。
家賃6万。半々で分けてオレ3万。マキノ3万。
「ダンボール、片しとくでー」
6畳一間ってかなり狭い。
布団2つ敷いたら、足の置き場がなくなるくらいに。
だから、荷物は少量にした。
最低限の服と、ギター。あとは、ナベ、食器、布団。
それくらい。
夢が100パーセント叶うなんて思ってたわけじゃない。
でも、なにもしないのは嫌だった。
空気の入れ替え。4月はまだ薄ら寒い。
2階の窓を開けて外へ乗り出す。
都会の空気は、からっとしていた。
誰もまだオレのことを知らない。
これからだ。
これから。
あの頃のオレは、夢と希望に満ちてた。
高校最後の文化祭の日。
後夜祭で、オレが作曲した曲をバンドの奴らと響かせた。
そのときの鼓動が気持ちよくて。ずっと続けたいって思った。
ガキの頃からの付き合いのマキノが、かっこいいかっこいいって何度も言ってて、それが嬉しかった。
高校を卒業して、東京に行くってそのとき決めたんだっけ。
「マキノ。一緒に夢、叶えようぜ」
高校3年の冬。
受験を控えた同級生がピリピリする中、オレらは必死に猛特訓した。
一日3つ。歌詞書いて、作曲する。
2時間かけてチャリで大阪市内に行き、路上で弾き語り。また帰りはギターケース背負って2時間チャリの全力疾走。
色んなライブハウスに行った。
DJのおっさんから、音作りを伝授してもらった。
経験豊富な歌詞が書けるように、何も持たずに1週間山の中で生活もした。和歌山のばあちゃんの家に居候だってした。
マキノはマキノでオレに負けないくらい色々してた。
近畿の舞台を行ける限り行って演技を盗み、稽古の勉強会にも参加したんだっけ。
入ってた劇団の公演会に最短で出演させて貰えたとも言ってた。
あの時のことをオレは今でも覚えている。
その舞台を見に行った。
孤独を負う国の王子。
マキノを取り巻くオーラが怖かった。
悲しみに溺れる魂を救ってやりたくなるような、未来は変わらないものかと願いたくなる王子だった。
呑みこまれてる。
___素質があると思った。
マキノは、オレなんかよりずっと色んな感情を知ってる。
普段はただの少年だとしても、本当はあんな体じゃ支えきれないものを抱えてる。
だから人に優しくて、どんな人でも受け入れる。
あいつの中にあるものは人を寄せつける魅力がある。
_______そしてそれは、役に生きる。
ズルいわ。
そういうの。
あいつ小さい頃に両親を亡くしてる。
しかも学校ではチビで、無口。
クラスメートからはハブられてた。
でもオレはそんな片にハマりたくなくて、話しかけた。
それがきっかけ、みたいな。
マキノを知っていくうちに、面白いやつだなって思った。
それと同時に嫌な安心感もあった。
まだこいつの可能性を知ってるのはオレだけなんだって。
___いつのまにか、あいつはオレの前を歩いてた・・・?
「隣の庭はよく見えるって言うけどさ・・・。オレってどうなの」
天才と凡才の違い。
オレが必死にあいつとの差を埋めるためにしてきたことは、なんだったんだよ。
「夢を語るものは今いる仲間を連れて行くな」って聞いたことがある。
ほんとだわ。
片方が叶って片方が叶わないんじゃ、心から祝福できない。
オレ、いつから夢を語らなくなったっけ。
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