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夜長ければ夢見る
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この間はじめて好きなやつをこの胸に抱き締めた
それは決して甘い響きを持つものではなかったけれどそれは俺にとっての決意を固めるのに十分すぎる材料だった。
思い立ったが吉日というように決意が揺らがないうちにこの想いを伝えたい
そう思って今日の放課後にでも一緒に帰らないかと誘おうと席を立った時だった
「閑谷くん、ちょっと話したいことがあるのだけど今日の放課後って空いてる?」
凛とした声でそう話しかけてきたのは歩の彼女である冴木だった。
そう聞いてくる彼女の口調には確かな決意があり威圧を感じた
断ることはできない…そう確信すると
さっきまでの決意が嘘のように胸の奥で萎んでいき息が胸につかえるような感覚に陥った
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
冴木に案内されたのは学校の近くにある落ち着いた雰囲気のカフェだった
ビルの3階にあるためなかなか目に留まりにくいのか人は疎らで学生は見当たらない
目の前に想い人の恋人がいるという状況に息がつまり他愛のないことをつい話してしまう
「素敵なお店だな。よく通ってるの?」
「えぇ。ここは叔父が経営しているからよく利用させてもらってるの。」
そういって彼女は言いづらそうに目線を下げた。
空気は重苦しく今にも逃げたい気分を押さえつけ、出されたミルクティーを啜る
普段なら落ち着くはずなのに少しも気分は良くならずむしろどんどん悪くなる一方だ。
俺が邪な目であいつのことを見ていることに気づかれたんだろうか
女の勘はするどいと言うし…
もう彼に近づかないで下さいっ!とか言われちゃうのだろうかなんて悶々と考えていると冴木は重たい口をやっと開きぽつりぽつりと話し出した
「叱られるのを百も承知で言うけど初めは私あなたのことが好きだったのよ閑谷くん。」
そう言って冴木に見つめられる。
思いもよらなかった言葉に俺は目を白黒させることしかできない。
「だから、歩くんに近付けばあなたと話すきっかけが出来るかもって…。歩くんが私に好意を持ってくれているのをわかって利用したの。」
そういって悲しげに微笑んだ
「最低よね…。けど、彼と付き合い初めてから私はどんどん歩くんのことが好きになっていったの。だから今の歩くんを思う気持ちは本当よ。私、彼が好きなの」
冴木に真剣な眼差しで見つめられ少したじろぐと同時に胸中でグツグツと込み上げるものがあった。
初めは俺のことが好きだった?けど、今はちゃんとあいつのことが好き?
ふざけるなっ…!
そんな軽い気持ちで付き合ってほしくなかった。あいつの気持ちを踏みにじるようなこと止めて欲しい。
今は好きだからなんていうのは後付けに過ぎないじゃないか
「そんなっ…「怒るのも当然だと思うけど私はわざわざあなたに懺悔しに来た訳じゃないの。」
言いかけた俺の言葉を遮り冴木はさっきとはうってかわり鋭い視線を向けてくる
「私、気づいたのよ。歩くんは私のこと別に好きなんじゃないって。決して彼が私に持っていた好意が嘘だなんて思ってはないわ。けどね、彼は私のこと見てるようで全く見ていなかったの…。」
悔しげに唇を噛み締める冴木を目の前に俺の頭は別のことに囚われていた
どういうことだ…?
あいつは冴木のことが好きじゃない?
「彼は私を通して誰かを見てるの。初めは気のせいかなって思ってた。だけどこの間ハッキリとわかったわ。彼、好きな子がいる。それは…きっと私じゃないの」
どんどん瞳が潤んでいく冴木を目の前にして狼狽える
女の子の泣き顔は苦手だ…
どうしようもない罪悪感にかられるから
それで付き合いを押しきられたことも過去にいくつかある…
とりあえず手元にあったハンカチを差し出した
確かに俺はあいつから好きな子の名前をちゃんと聞いたことないし冴木が彼女だっていうのも友達づてに聞いて初めて知った
だから、あいつが本当に好きな人は別にいるってことも考えられなくはない
だけど…あいつは好きな子がいるのに違う子と付き合ったりするような奴じゃない
それに付き合うことになったと教えてくれたとき相手は好きな子だと言っていたじゃないか
「こんなの言い訳に聞こえるかもしれないけど歩くんだって結局は私のことを見てないんだからそれは裏切りだと思わない?私のことを棚にあげるつもりはないけど彼も同じことをしてるわ…。もしかしたら…閑谷くんあなたなら彼の本当に好きな人を知ってるんじゃないかと思って呼びだしたの…お見苦しいところみせてごめんなさい。」
そう言いながら彼女は頭を下げた
「いや、そんな頭を下げなくてもいいからっ!心当たりか…」
そんなもの俺の方が知りたい
ふとこの間の友人の言葉が頭に浮かんだ
"冴木とお前仄かに似てるんだよなぁ"
…そんなまさか、な
思い上がりにも程がある
あいつは女の子が好きなんだしそんなことあり得るわけないのにつくづく自分の可笑しな思考に呆れてしまう
「今のところ思い当たる子いないな…。力になれなくてごめん。けど、あいつが冴木を好きなのは嘘じゃないと思う。あいつを信じて欲しい」
「いいの、私こそ急だったし。…ありがとうね。そう、だったらいいんだけど…」
そういって彼女は赤い目元緩ませて微笑んだ
恋敵といっても同じ土俵にすら立ててないが彼女を励ますような言葉を言ってしまう。
やはりあいつには幸せになって欲しいし…
それに彼女と自分を申し訳ないことにどこか重ねてしまったのだ
想っているのに自分を見てくれないというその心境に
あいつの"本当に好きな子"かぁ…
いったい誰なんだろうか
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