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「る…い?どうしちゃったの?何で…」
上半身を起こした柚瑠はただただ訳が分からないといった顔をしている。
「何、お前」
突き飛ばされた意味が分からないの?
何で…どうして!?
「ふざけんなよっ!今更!どうして!?」
怒鳴り散らす僕の声が虚しく教室にこだまする。荒くなった息遣いがやけに大きい。
「何でお前なの!?おかしいだろ!!」
怒鳴られる度にビクつかせ、恐怖に歪むその目が僕の怒りを更に増幅させる。
まるで、被害者だと訴えかけているようで。
自分は何も悪くないと言っているようで。
こんな風に怒っている僕が変なんだって言われているようで。
行き場をなくした感情が僕の身体を駆け巡っている。
強く握った拳で、側にあった机を思い切り殴った。
「泪……」
「なんで…?全然…ずっと…違ったじゃん。急過ぎるって…」
たった1日。
たった1日で全てを奪っていった。
勇くんを好きだという素振りを見せたこともないのに、ずっと勇くんの気持ちに気が付かなかったくせに、それなのに、どうして、付き合ってるの?
可笑しいじゃん。変じゃん。
「僕の方が絶対…絶対好きなのに!お前なんかより何倍も!」
1年間、見てきた。好きだった。恋愛に全部費やしてきた。
どうしてだろう。涙も出てこない。
「どうして言ってくれなかったの…?」
震えた、情けない声。柚瑠がフラフラと立ち上がり僕と対峙する。
『どうして言ってくれなかったの』
その台詞は僕を非難しているように聞こえた。
ふざけるな。言っていたらこの結末が変わったってか?告白を受け入れなかったのか?
「もしっ、言ってくれたら…」
「言ってくれたら何!?協力した?じゃあ今すぐ別れろよ!!」
──言ってたってどうせ変わらなかった。
「っ……それは……出来ない…ごめん…でも…でも」
柚瑠はポロポロと大粒の涙を流しながら僕のことを見つめる。
澄んだ綺麗な瞳。
理不尽な僕の怒りを受け止め傷ついている、お人好し。
本当に…妬ましい。
「結局……こうなった…」
ふっ…と、手の力が抜けた。
こんな怒鳴ったって、泣かせたってどうにもならないんだよ。
客観的なもうひとりの自分が冷めた目で僕を見つめてくる。
これじゃあ悪者はどっちだろうね…って。
知ってる…知ってたよ。
いつかこうなるって…心のどこかではずっと前から分かっていたのかもしれない。僕に勝ち目なんかないこと。
それでも…意地になってた。
恋愛しかなかったから。
好きって気持ちを諦めたら何も残らない気がして。
いや、実際そう。何も残らない。
「ごめんね、泪…ごめん…ごめんなさい」
「………。」
「ごめん…気が付かなくてごめん…」
顔をクシャクシャに歪めて、涙でぐちゃぐちゃになりながごめんごめんとひたすらに、柚瑠は謝る。
あーあ。ばっかみたい。
柚瑠は…悪くないのに。というか、逆に怒ればいいのに。
本当にウザい。根本的に僕とは違う。
もう、いらない。
もう、疲れた。
ぷっつり、心の糸が切れた。
「大っ嫌い」
ポツリ…と、呟いていた。
でもその小さな呟きは柚瑠にとって信じ難いものだったのだろう。
柚瑠は俯いていた顔を上げて、さっきより酷い顔になる。
『今なんて言ったの?』と、疑うような、祈るような視線。
隠していたもう一つの気持ち。
今この瞬間、別に隠す必要がなくなった。
1度外した視線を柚瑠に返し、真っ直ぐ見詰めながら、躊躇することなく告げた。
「お前なんか…最初から大嫌いだった」
これから、無理矢理一緒にいなくてすむ。話さなくてすむ。笑わなくてすむ。
心の荷が降りたように軽くなった。
「……え?……それ…嘘…だよね?ご、ごめん!今回のことは…でも…」
ヘラりと口角を上げ情けない顔でこの場に不釣り合いな笑のようなものを浮かべた柚瑠。そして小刻みに震え、首を左右に振る。
「嘘だよね!?ねぇ!!」
目を大きく見開き柚瑠が叫んだ。
柚瑠もこんな風に取り乱すんだ…とか。
僕の感情は完全に麻痺していた。一気に色々な感情を抱え過ぎて、何も感じない。
虚無だ。
何も答えない僕。
柚瑠は力なく
「嘘……」
その場に両膝を付いた。
この男はもし僕が、やっぱり嘘だよって言ったらそれを信じるのだろうか?また友達をやるのだろうか?
いいや。そんな訳ない。
もう知らなかった時には戻れない。
戻れないように
「聞こえなかった?最初から嫌いだったよ」
「やめて…言うな…」
徹底的に
「親友?友達?ふふ」
「泪っ!!!」
傷つける。
「僕はお前を友達だと思ったこと、一度もないから」
ざっくり突き刺した。深く、深く。手加減なんかしない。
柚瑠は両手で顔を覆って、床に頭を付けて丸まった。
ただ啜り泣く声だけが聞こえてくる。
「………。」
やっと言えた。
本当のこと。ずっと我慢してきた。
「みんなから好かれて、その上勇くんにすら。全部持ってる。こんなに努力したのに、頑張ったのに、追いつけない」
お前をこうやって見下ろせているのに。
傷ついてざまぁみろって思っているのに。
「お前なんか居なくなればいいって思ってたよ」
ポッカリ大きな穴が2つ…胸に空いてしまった気がした。
戻れないようにしたのは僕なのに。
壊したのは僕なのに。
「さよなら」
ピクリとも動かなくなった柚瑠に向けて、最後の一言を添えた。
目から1粒、水が零れた。
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