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前編
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宅配便の仕事上、お届けの荷物を送り先に届ける前に、あらかじめ電話連絡することがたまにある。
例えば、すっごく重い荷物の時と――あと、代引きの時だ。
代引き、つまり代金引換貨物っていうのは、お届け先に荷物を送って、その引き換えに荷物の代金を預かるっていうサービスのこと。
手数料かかるから割高になるけど、ネット通販でクレジット決済したくない時なんかは、とても便利だし、お手軽だ。いつも代引きを使ってくれる、常連さんもいる。
この代引きで荷物を届ける時は、必ず事前に連絡することって、うちの会社では決まってる。
電話で確かめるのは、在宅かどうかと、荷主の確認。金額をお知らせして、「現金のみです」って伝えて、訪問の許可を取る。
電話で「今、持ち合わせがないから明日で」って言われることもあるし、連絡は重要だ。
「毎度ありがとうございます、山川急便です。松野さんでよろしいでしょうか?」
伝票を見ながらお届け先の電話番号に、連絡を入れる。
この松野さんっていう男性も、代引きをよく利用してくれる常連さんの1人だ。松野さんの方も、オレの電話ですぐに用件が分かったみたい。
『あー、代引きだろ? いーよ、すぐに来て』
説明するまでもなく、あっさりとそう言ってくれた。
「2100円です」
代金を告げて、電話を切る。いくら仕事で慣れてるって言っても、やっぱりお客さんに電話を掛けるのは緊張するし。話が早いのは、すごく助かる。
助かるんだけど――。
アパートの前に車を停めて、お届けの荷物を運び出す。
何が入ってるのか随分重くて、持ち上げるのに気合がいった。
「よい、しょっ!」
掛け声とともに荷物を肩に担ぎ上げ、鉄製の階段をカンカンと上がる。お届け先は2階の奥の201号。
荷物を担いだままピンポーンと呼び鈴を押すと、すぐにインターホンのスピーカーから『はい』と応じる声がした。
常連さんへのいつものお届け。ドキドキしながらドアの前で待ってると、間もなく内鍵がカタンと開いて、アイボリー色の鉄扉がバッと開いた。
その途端、いつものように肌色が目に飛び込んできて、うわぁと思う。
「はい、2100円」
オレが何か言う前に、ピッタリのお金を用意して待っててくれるのは、すごく助かる。
「荷物、中に置いて」
そう言って、テキパキ指示してくれるのも助かる。ハンコもサッと押してくれる。
けど、その「助かる」って思いを打ち消す勢いで困惑するのは、彼がいつも上半身裸だからだ。
見ないように、見ないようにって思っても、つい目に入れてしまう肌色。
隆々とした胸筋、ごつごつと割れた腹筋、たくましい二の腕、広い肩……。ちょっと垂れ目なんだけど、顔もキリッと整ってるし、ニオイ立つような男前だ。
特に今日は蒸し暑いし。日焼けした肌が少し汗ばんでるように感じて、いつもより5割増しでどぎまぎしてしまう。
昼も夜も、いつ来ても裸なのはなんでだろう?
事前に電話してるんだし。服を着る余裕くらいあるハズなのに、なんでいつも裸のまま?
別に男同士だし、気にする方がおかしいのかも知れないけど、毎度いつもだと気になるよね。
前は下にスウェットはいてたりもしたんだけど、今はボクサーブリーフ1枚だ。唯一の布がそれじゃ、そこに目を向ける訳にもいかなくて、ホント困る。
そりゃ、そういう格好で出てくる人が他にいない訳じゃないけど、毎回毎回ってのは珍しい。
「今日も暑ィな」
気安く声を掛けられて、「ひゃっ、はい……」と締まりのない言葉を返す。
「顔真っ赤だぜ?」
ふふっと笑いながら手を伸ばされ、帽子の上からポンと頭を叩かれて、思わずビクッとしてしまう。
顔真っ赤なのは、誰のせいだと思ってるんだろう? 無自覚だとしたら、タチ悪い。
でも、男同士で意識する方がおかしいような気もして、結局何も言えなかった。
この地区の主な担当はオレだけど、休みの日とか、配達数が多い時なんかは他のスタッフに手伝って貰うこともある。
たまにあの常連さん、松野さんちへの荷物も、他の人に頼むこともあって、そういう時はやきもきしてた。今日もたくましい裸を晒してるのかな、って。
女性配達員とかだと、悲鳴上げない? 露出魔だーって、大騒ぎにならないかな?
けど――。
「あの、○○アパートの松野さんって人、裸じゃなかった?
さり気なくヘルプのスタッフに訊いたら、あっさり否定されたんだ。
「えっ、服着てましたよー?」
ビックリした。いや、当たり前なんだけど、ビックリした。
「裸の人なんて、いませんでしたよ。主任、暑さでぼうっとしてるんじゃないですか?」
バイトの女の子にくすくす笑われて、えー、と思う。
もしこれが逆で、女の子の時だけ服を脱いでるって言うんなら立派なセクハラだけど、そうじゃないんだから意味が分かんない。
事前連絡してるのに、いつも半裸の常連さん。
何か目的でもあるのかな?
倉庫を出る前に、荷物と伝票とをチェックして、松野さんの名前を見付けてドキッとする。
またいつもと同様、代引きでのお届け、で。
「毎度ありがとうございます。山川急便です……」
オレからの事前連絡に、すぐに出てくれた松野さんは、響きのいい声で『はい』と応じた。
『代引きだろ? 待ってる』
それはいつも通りの短い言葉で――いつも通り、ドキッとした。
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