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好きと憧れ
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翌日。
「瞬ちゃんおっはよー」
「はよ」
朝練上がりの仁と三月が教室にやって来た。
「仁、三月、おはよう」
仁は「疲れたー」とため息をつきながら席に座り、三月は座るなり直ぐ眠り始めた。
今は、朝礼が始まる5分前。
ほとんどの生徒が席についているが、まだ大泉くんの席は空いている。
大泉くん、どうしたんだろう…。
いつもは、来るの早いのにな。
そう思っていたら、息を切らしながら大泉くんが教室に入ってきた。
「セーフ!?」
「セーフセーフ!」
「おっせーよかず!」
「悪い悪い、寝坊しちまってよ」
ほんの少しざわざわしていた教室が、彼が来た瞬間一気に賑やかになる。
すごいな、大泉くん、いるだけで周りを明るくする。
本当に、俺とは正反対だよ。
昨日話せたのが嘘みたい。
と言っても、緊張しすぎてうまく話せなかったんだけどね…。
そう考えながら彼をぼーっと見つめていると、ばちっと目が合った。
反射的に逸らしてしまい、今のは感じ悪かったかなと後悔の念が渦巻く。
でもなんか、ちょっと気まずい…。
もう一度ちらりと彼を見ると、いつも通り友達と話をしていた。
………はぁ。
昼休み。
俺は今日日直だから、先生に頼まれたノートを生物室に運んでいた。
たかがノートでも、クラス全員分となると流石に重い。
「はぁ…」
「手伝うよ」
「え!?」
突然後ろから伸びてきた手が、持っていたノートの半分を持っていく。
振り向くと、大泉くんがニコッと笑って俺の前を歩いていった。
「え、あっ、いいよ、悪いし!」
咄嗟に彼を追いかける。
だが大泉くんはすたすたと歩いていってしまう。
「お、大泉くん…いいよ、教室戻りなよ」
「……氷室さ」
「…?」
大泉くんは足を止めてじっと俺を見つめた。
ドキッと心臓が鳴って、顔が熱くなる。
俺はそれを隠すようにうつ向いた。
「やっぱり俺のこと、嫌い?」
「え……」
「今日の朝も今も、やっぱり俺のこと見てくれないし、避けられてるような感じだし、昨日のことが嘘みたいだ。……やっぱり、嫌いなのか?」
「ち、違う!」
違うんだ。
そうじゃないんだ。
でも、その後の言葉がうまく出て来なくて、黙りこくってしまった。
「………………」
「……なんか、ごめんな」
なんで、謝るの…。
俺が、何も言えないのが悪いのに。
…俺って本当に、ダメで嫌な奴だ。
きっと嫌われた。
せっかく優しくしてくれたのに…。
前を歩く彼の背中を見つめていたら、きゅっと心臓が締め付けられた。
伝えなきゃ、俺の気持ち。
このままなんて、なんか嫌だ。
「………………あのっ…」
「ん?」
足を止めてこちらを振り向く。
彼の少しクセのある髪の毛が、窓から入ってくる風でさらさらと揺れていた。
「俺………………大泉くんのこと好きだよ」
「………え?」
「優しくて、爽やかで、かっこよくて……。そーゆーところが好きだし、俺の憧れなんだ。だから嫌うって言うのは、あり得ないことだから……その………」
「……あぁ!そっちか!」
「え?そっち?」
って、どっちだ?
「あ、いや、ごめん…何でもないこっちの話!」
大泉くんは早口でそう言ってまた歩き出した。
俺もその後を追いかける。
「………でも、そっかぁ、『憧れ』か…」
「ご、ごめん…」
「いやいや、何で謝るの。むしろ嬉しいって。ありがとう」
ちょっと照れくさそうに笑う大泉くんに、胸がきゅんとなった。
うん、やっぱり俺………大泉くんのこと好きだ。
どくどくと、心臓がうるさいほどに鳴っている。
どうか……。
どうかこの音が、彼に伝わっていませんように…。
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