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18歳以上ですか?
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虎のようにお前の前に皮を残して、人のようにお前の中に名を残したい。
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「さぁ、君は何という魔物か?」
彼はいつだって冷静にこう言い放つのだ。
悪魔を相手にしようとも
獣ならぬ、人ならぬ者を相手にしようとも
悪さをする霊や悪魔を狩るのが、この
悪魔祓いの仕事であった。
いつもは狩りに行くのだが
本日は、珍客である。悪魔の方から祓ってくださいと言いに来たのだ。
それは人が身近に置くモノに取り憑いて幸をもたらしたり、逆に病をもたらしたりする精霊であった。
珍しくはそれは霊の状態でなく、人外のような人間に近い姿にまで己を持っていけている奴だった。
獣のような口元、大きく伸びる角、人のような身体。
話を聞けば、彼はある男の持ち物に取り憑いていて、幸をもたらしていたはずだったが、
先日、己の力が持ち主の男に病をもたらしはじめている事に気がついたらしい。
彼は悪魔祓いに、絶望を隠せぬ顔で言った
「呆れるかもしれないが、私は男を慕っている。想っている。だから私を消してくれ。彼の前からも、この世界からも、黄泉の国からさえも。」
要するには、何が起ころうと絶対的にその男の元に戻らぬようにまでしてくれという事だ。
悪魔祓いは呆れた。
このような滑稽な悪霊もいたものかと。
悪霊のくせに自殺志願者。
「呆れるな、お前は霊なのに」
滑稽だなんて悪い言葉すら口から出そうになり慌てて噤んだ。礼儀に反する。
悪魔祓いは美しく仕事をしたい質のようだ。
そうして2人は男の元へと行った。
悪魔祓いは男を深く眠らせると
精霊へ訪ねた。
「さぁ、最後の別れだ。声は届かぬが、言いたい事は言ってしまってからの方が美しく消えれるだろうよ?」
そう言うと、精霊は
今までの覚悟を決めたような表情をだんだんと崩し、
口は震え、拳を握りしめた。
霊の力が突然大きく強まったと思うと、
瞬時にある程度の強さに収まった。
───さっきの強さの力のままならば私には祓えなかったかもしれないな。
悪魔祓いはこの精霊が本当に自ら祓われに来ているのだと実感した。同時に疑問は膨らんだ
こんなにも、想うまでになるものなのか。
人間と、精霊という立場だけでそれは何にも適わない壁である。
それは自動的に絶対的な諦めに速やかに繋がるだろう。
そのような明らかな無理を知って
想いをここまで募らせる事はあるのだろうか。
少し、感情論と言うものに欠けている悪魔祓いにとっては
理解に苦しむ事ではあったが、
次の瞬間、
それは一つの理解へと直結した。
精霊が震える口を開くと
感情全てを吐き出すように声をあげた。
それは、震えながらも強く、大きな、大きな声だった。
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