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兆候-8
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電車での帰宅中、背中へ不躾に突き刺さる視線が一つあった。大河はその正体を知っている。
揺れる車内で立っていた大河が振り向くと、大河と同じような種類の高校生が――つまり不良が、目を吊り上げてこちらを睨んでいる。
他校の生徒だ。彼には見覚えがある。たまに同じ車両に乗り合わせると、今のように喧嘩を売ってくる。実際に殴り合いまで発展した事はないが、あまりの執拗さにそろそろ絞めてもいい頃だと大河は思う。
自宅最寄の駅に着くと、大河は電車から降りた。彼も後を着けてくる。
電車が発車するとその男が早速、大河に詰め寄った。
「テメー、鵜沢(うざわ)高校の仲宗根だよなぁ」
大河の住む地域は過疎であるためか幸い、この駅は無人駅である。ホームで高校生の喧嘩が始まったとしても、目撃者のいない駅では通報される心配はなかった。
それを踏まえた上で彼は、恐ろしい顔で大河に迫っている。
「だったら何だよ。腰抜けが、俺に何か用でもあんのか?」
「調子乗ってんじゃねーぞ。俺はずっと機会を狙ってたんだよ。テメーをぶちのめすな」
「出来んのかよ。一人で大丈夫か? オトモダチ呼んだ方がいいんじゃねえ?」
「舐めてんじゃねーぞ!」
至近距離でガン飛ばしていた男が何の構えもなしに、突然肘を突き出してきた。流石にこの距離での不意打ちは避けられず、顔面に強烈な肘鉄砲を食らう。
塞がりかけていた頬の傷が裂け、血が滲むのが分かる。鼻からも垂れた血を乱暴に拭い、よろけた体勢を整えた。
「テメーも大塚と同じ目に遭わせてやるよ!」
男が容赦なく殴りかかってくる。大河はそれを左に避け、相手の肩を掴むと腹部を膝で蹴り上げた。男が咳き込む。
「ああ゛!? 誰だソレ」
「っ……、テメーがこの間痛めつけてくれたなぁ、俺のダチだよ! 左手と肋にヒビ入って通院中だっつの」
「……あー?……悪いが、全く記憶にねえな。勘違いか、人違いじゃねえの?」
「ふざけんな!大塚はテメーにやられたっつったんだよ!」
彼は懲りずに突進してくる。大河は苛立ちながらも、唇の端を僅かに持ち上げた。
周囲で色々と不快な出来事があり、鬱憤が溜まっていたのだ。発散にはちょうどいい。学校で生徒が亡くなった事もあり、明日と明後日は休校だ。見える場所に怪我をしても柏木に追及されずに済む。
嬉々として受け入れた喧嘩は、通りかかった住民が通報しようとするまで続いた。
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