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兆候-11
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ウサギの着ぐるみに追い掛け回される夢を見た。
そいつよりも速く、そして全力疾走している筈なのに一向に距離は空けられず、むしろ縮まっているような気さえする。背後を振り向くとニタニタと笑うウサギが凶器を手に迫る。
疲労でヘトヘトの身体に、鋭い刃が、まるで釘でも打つような気軽さで振り下ろされた。自分の背中でグシャ、と何か水分を含む物質を押し潰したような音がした。
激痛は気絶してしまいそうな程に全身へ駆け巡り、呼吸すら出来なくなって脳に酸素が回らない。しかし意識を手放す事は許されなくて、永遠に与えられる苦痛に気が狂いそうだった。
背中に何度も振り下ろされる。その度にグチャグチャと肉を掻き混ぜるような音が聴覚を犯す。
飛び出した自分の腸が視界に入った。もはや衝撃や痛みなどは感じなくなり、ただ呆然とそれを眺める。真っ赤な血液でてらてらと光る内臓。ブチブチと不快な音を立てて引き裂かれた腸は、まだ温かくて――。
「っは、…ぁ…!」
突然の覚醒だった。
頭の中で目にした映像が薄れていく。
(……嫌な夢だ)
荒い呼吸を繰り返しながら、大河の全身は汗でびしょ濡れだった。髪の毛や額からの汗が床に落ち、Tシャツも土砂降りに見舞われたように湿っている。
凄絶な悪夢。現実ではないことを確認し、大河の緊張は解けた。
(昨日のは?)
昨夜の、いや今日だろうか、深夜のあれは……夢か。それとも現実か。
夢であって欲しいと強く思う。疲労した脳が悪夢を見せているのだと。
しかし否定できない自分もいた。手に、ウサギの腹を刺した感触がまだ残っている。溢れ出す鮮血、死にたての心臓。
考えたくない。忘れたい。もはや夢でも現実でも、どちらでも良かった。
ベッドに入らずに寝たから身体が痛い。痛いのはそれだけが原因ではない気がする。
大河は立ち上がると、陰鬱な気分のまま寝室を出た。
「……」
ほうと溜め息が零れる。キッチンには何もない。ウサギの身体も、斧も、内臓も落ちていない。フローリングにも大河の身体にもTシャツにも、血は付着していない。
全身の汗を流すべく、大河は風呂場へ向かった。表面が大きく凹み、中身が半分程に減っているペットボトルの存在には気づかなかった。
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