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再び、作業しやすいように眼鏡を外すと、良人さんは慣れた手つきでワックスを手に取り、俺の髪を器用にセットしていく。
「わぁ~・・・にしても本っ当に君、化けたわね~。てか制服なのが勿体ない」
再びあきこさんが懲りずに口を挟むが、良人さんは俺の髪に夢中でどうやら聞こえていないらしい。
完全にあきこさんの存在を意識から抹消しているようだ。
「はぁ・・・。良いなぁ。この頭は・・・本当にキレイ。うなじもツルツルだし、襟足はちゃんと寝てくれてて変に立つ心配もないからどんな風にしようが大丈夫だし、本当に良いよ」
俺の髪をセットしながら、良人さんはそれはそれはうっとりとした表情でぶつぶつと呟いている。
「・・・うわ。よしさん完全にイッちゃってる」
何度かあきこさんが名前を呼び掛けると、はっとしたように漸く良人さんは我にかえった。
「え?今、俺、なんか口走ってた?」
俺とあきこさんがその言葉に頷くと、良人さんは羞恥に頬を赤く染める。
「良人さんが、重度の後頭部フェチってのが、今のでこのマサト君とやらに完全にバレてしまいましたよ」
そんな良人さんにあきこさんは容赦なく追い討ちをかける。
良人さんは、今や顔から火を吹くんじゃないかってくらいに真っ赤になっていた。
「良人さん、そんなに気に入ってくれたんなら俺の頭もさぞ喜んでると思いますよ?」
俺は良人さんに慰めになっているのかどうなのか良くわからない言葉をかけた。
「~~っ。マサト君、ありがと」
そう言って、良人さんは俺の髪から手を離す。
セットが終わったようだ。
あきこさんにブーブーと文句を言われながら眼鏡をはめて鏡を見る。
いくら文句を言われようと、眼鏡をはめないことには何も見えないのだからこればかりは仕方がない。
後ろも、あきこさんが鏡を持ってきて見せてくれた。
出来上がった髪は、ごくごく普通の決して奇抜な髪型ではないのだが、なんだろう、こういうのを何と表現すれば良いのか・・・。
あー、スタイリッシュ?
んーと・・・ナチュラルな中にも洗練された・・・なんだ?
散髪なんて専ら近所の床屋で済ませ、ヘアカタログなんてものも、今までろくに見たことはないのだから、そういった髪型に対するうまい表現が俺の中にあるわけもない。
ただ一つ間違いないのは、良人さんにカットされ、セットされて、鏡の中の俺は俺じゃないみたいにあか抜けて、見栄えが良くなった。
似合ってるというか、魅力を引き出された、みたいな?
とにかく、100%良い方向に転んでいる。
今までより良くなった。
それだけは間違いない。
帰りしな、良人さんにアドレスの交換をしようと言われた。
『万が一、もし、帰ってから気が変わってモデルを引き受けてくれる気になったら連絡して』
と、それと、また髪を切りたくなったら気軽に連絡してくれと言われた。
さすがにその時は営業時間にお客様としてカットするから料金はもらうけど、割引きするからねって、あの優しい笑顔でそう言われた。
だいぶ長居してしまっていたようだ。
良人さんに声を掛けられたのはお昼すぎだったのに、もうすぐ、夕方になろうとしている。
帰り道、俺はわけもなく良人さんにもらった名刺を眺めていた。
きっと、その顔はだらしなくゆるんでいたに違いない。
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