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24本目、印象。
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運ばれてきたアイスココアを飲む。
思っていたよりも甘くて僕は嬉しかった。
長野さんはアイスティーにガムシロップを入れてかき混ぜている。
お互い甘党なんだという親近感がさらに嬉しくなった。
「離れていても連絡ができるのは便利なようで不便だね。歩生くんが悩んでいる時とか目の前で励ますことが出来ないもどかしさがあったよ。
こうして実際会うと、今まで歩生くんを困らせてきた人たちが更に恨めしくなってきたな」
「僕もですよ。いつもは相談ばかりしていたけれど、相談された時は嬉しかったです。そして長野さんを困らせてきた人たちがムカつきます」
長野さんは僕の言葉の後に優しく微笑みながらアイスティーを飲んだ。
そしてもうひとつガムシロップを入れた。
長野さんは僕よりも甘いものが好きなようだ。
「歩生くんは特別だからね。同じ悩みを持って生きてきた相手だから相談出来たんだよ。
番ができた時にも優しく祝福してくれたね」
長野さんには番相手がいる。
当時はそのアルファ性の人に片思いをしていた。その人に発情期を見られてしまい流れでベッドへ…事の後に相手の人から
『一生かけて愛したい』
と言われながら項を噛まれたらしい。
結果的には両想いが実ったというとても幸せな関係性だ。
長野さんも過去に辛い思いをしてきている分、その話を聞いたときはとても嬉しかった。
長野さんは幸せそうな空気を放っている。
常に優しく口角が上がっているため穏やかに見える。
愛する相手がいる人は表情がこんなにも豊かなんだ。
僕もいつかは一生かけて愛したいと思える人と巡り会えるのだろうか。
長野さんはその後も色々なことを話してくれた。
デートに行った時の話や些細なことでも楽しく感じるということ。
好きだと思える人が近くにいると日々が楽しくて仕方ないということまで。
発情期も以前より怖くなくなり相手もその度に優しく受け止めてくれるらしい。
「この間は少し喧嘩しちゃって。くだらない内容だけどね…。でも悪いのは向こうだと思うよ。名前を書いたのに僕のプリンを勝手に食べたんだよ」
「長野さんなら許しそうな感じがしますけど怒ったんですね」
僕は少し可笑しくて笑った。
長野さんが怒っている姿は見たことがない。
頬を膨らませて少し怒る素振りを見せるもすぐに許してしまう…そんな姿が思い浮かんだ。
「あーこら!笑わないのー…。あのプリンは期間限定だよ?次食べれるの来年なんだよー」
「でも楽しそうですね」
「…うん、楽しいよ」
長野さんはふんわりと笑った。
溢れ出る幸せオーラで押しつぶされそうだ。
僕にも分けてもらいたい。
「そうそう。歩生くんの話を聞きたいな。自分の話ばかりしちゃってたからさ」
「僕の話?」
「うん。バイト先のアルファ性さんと大学のアルファ性さん…だっけ?世の中にアルファ性は多くないのによくそんな身の回りに居たものだね」
「…本当ですよね」
確かにそう言われて気づいた。
バイト先で笹窪さんが噂になっていたのも、大学で篠宮さんが噂になってたり囲まれていたのも珍しいという理由もあるだろう。
それこそオメガ性の方が少ないけれど…。
僕の身近にこんなにも固まるなんてある意味運命を感じてしまう。
「でも僕の話なんて何も…」
「うーん…じゃあ質問するから答えてね」
「質問…?」
「そう。それなら簡単じゃない?」
長野さんは表情をキリッとさせた。
確かに質問に答えるのなら簡単かもしれない。
僕の性格を分かってくれた上でまた気を遣わせてしまった…。
「バイト先のアルファ性さんと大学のアルファ性さんの印象教えて?」
印象…。
笹窪さんも篠宮さんも第一印象と今の印象は変わった。
笹窪さんの場合は悪い印象から良い印象へと変わったけれど、篠宮さんに関しては悪い印象から更に悪い印象へと落ちている。
「えっと…大学の方は自由奔放で、いつも周りに女の人たちを連れて歩いている上ヘラヘラとしてるなと思います。あまり得意ではないです。けれど優秀な裏にはきちんと努力をしている面もあり意外と真面目だなぁと思いました」
「ほー…まぁアルファ性の人はベータ性やアルファ性ほど努力しなくてもいい大学に行けるよね」
長野さんは少し強い口調でそう言った。
何か過去に良くないことがあったのだろうか。
アルファ性全員が悪い人ではないと長野さんは言っていたけれど、アルファ性のこと自体はそんなに好きではないらしい。
気持ちは痛い程にわかる。
「じゃあバイト先のアルファ性さんの印象は?」
「最初はアルファ性と言うことで身構えたけど、真剣に話をされた時に驚きました。その時点でアルファ性自体への印象が変わった気がします。でも時々オメガ性とバレたらどうしよう…と思います」
「そっか。歩生くんは人をきちんと見ているね。好き嫌いの二択で決めるんじゃなくて良いところを見つけ出すなんて素敵だね」
そう褒められて少し心がくすぐったくなる。
篠宮さんは絞り出した答えだけれど…。
真面目に取り組む姿を見たことがあったため話せただけで、もしその姿を知らないままだったら悪口しか出ていなかっただろう。
「バイト先のアルファ性さんの方がいい印象なんだね」
「えっ…?」
「オメガ性だとバレて怖いなと思う気持ちはバイト先のアルファ性さんの方が強いんだよね?ふむふむ〜」
長野さんはなにか納得したようにそう言いながら頷く。
それから小声でなにかを言いながら笑ったり険しい表情になったりコロコロと顔を変えた。
一体何を考えているのかは分からないけれど長野さんが楽しそうなら良かった…と思いつつ氷が少し溶けてきたアイスココアを一口飲んだ。
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