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雨さえ降れば
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side 杜宮 啓介
「なんでこんな時、晴れてんだよ」
空は快晴。
気分は、最悪。
今朝のことを思い出しただけで、吐き気眩暈が押し寄せる。
『…お遊びは、高校までだ。大学は何がなんでも名門に入りなさい』
『今だけだ。目を瞑ってやるのは』
思い重圧が、俺に容赦無くのし掛かる。
なんだってんだ、くそったれ。
俺はどんなに足掻いたって、親が引いたレールの上でしか、生きられない。
何処までも続く道は、何もかも準備されたもの。何ひとつ、選ぶことなんて出来ないんだ。
『啓介、貴方のためなの』
誰が、そんなこと頼んだ…?
『大丈夫、この道を進めば貴方はきっと幸せになれる』
幸せ?俺が今まで捨ててきたのは、そんなものを手にしたかったからじゃない。
そんな未来が、欲しいわけじゃないよ。
俺は何度も何度もいろんなこと、諦めてきた。そして、あんたたちが望ことは何でも応えてきた。
…なのに。
たったひとつの自由でさえも、俺から奪うって言うの…?
『こんなガラクタ…捨てなさい…っ!!』
『お父さんのお許しがないと無理よ』
なんでだよ、なんで。
夢が生まれた。
とても、小さな夢が。
それを知られた。
応援なんて、してもらえる訳ないって、分かってたんだ。期待なんてしたくなかった。でも、初めて出来た夢だったんだよ。
……だけど、親父は豹変した。
たった一つの自由でさえも、許されなくなった。
「……家、暫く帰りたくないなぁ」
深い溜息を吐き出す。
部屋着のまま、飛び出してきてしまった。
穏やか過ぎるここは、行きかう人皆が幸せそうで。…羨ましくて、憎らしくなる。
(嗚呼、嫌だな。汚い部分が、出てきそうだ)
醜い、汚くて黒い感情がぐるぐる渦巻く。
抑えきれなくて、膨れ上がる、嫉妬。
自分と他人を比べて、しまう。
俯いては、はあっと吐息を吐き出した。
「…杜、宮?」
聴き慣れた声が聴こえた。
ふと、顔をあげる。
随分と間の抜けた声だと思ったら、そこには今、一番会いたくない奴が立っていた。
「偶然だねぇ。杜宮もよくここ来るの?」
奴は、…望月はへらっと笑う。
最近、良く一緒に居るようになった奴ではあるが、学校意外で会うのは初めてで、私服もやっぱりゆるーい感じだった。
「……まぁ」
それでも、今の俺には余裕なんてなかった。
素っ気なく返事をして、その場を離れたかった。…このまま一緒にいると、嫌な自分が出てきそうで、怖い。
「何、こーちゃんのトモダチ?」
ひょいっと背の高い男が顔を出す。
…随分と背が高いな、こいつ。
少し短めの黒髪。すらっと伸びた足は、長い。ちらっと、視線を送るとパチっと目が合った。
「あー…、うん。俺のクラスの杜宮」
緩く返事を返すあいつ。
へぇ、っとでかい男は俺を見詰める。
……なんだよ、こいつ。じろじろみやがって。
「んで、こいつは三浦 史織」
そのミウラという男は、望月の連れとは全く正反対に見える。…望月がこんな野郎とつるむなんて、初めて見た。
「どうも、三浦デス。こーちゃんとは昔から家が隣なんですよ。まぁ、幼馴染って奴ですけど」
飄々とした様子で、話す。口調は想ったとおり、軽い。…つーか、敬語?こいつ、年下なのかよ。くそでかい、ムカつく。
「そうなんだ。三浦、くん?高校生だよね」
にこりと笑う。笑顔を作る。…休日に『委員長』の俺を演じなきゃいけないなんて。ホントにクソな休日だな、おい。
その時だ。
三浦はふっと小さく口角を上げた。
そして小さな声でいや、声なんて聞こえなかった。唇だけを動かして、こう、囁いた。
『嘘くさ』
嘲笑う瞳。
俺は直ぐにわかった。
見透かされたってことに。
初めてだ、なんでだ、ってホントのとこ焦るところなんだけど。それよりも何よりも。
(………この、糞ガキ)
心底、腸煮え繰り返そうになるくらい、ムカついたってこと。
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