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ニヒトは窓から顔を出し、空を見上げた。そこには月がぼんやりと姿を現しており、これから来る夜を予感させた。
そろそろ鍵を開ける準備をしなくてはいけないな、と彼は思う。しかし早すぎても良くない。
──ああ、どうして自分は、招きたくもない客を招かねばならないのだろう。
やがて真夜中の3時、ジーグはニヒトの部屋に足を踏み入れた。
「お待たせ」
「待ってない。とにかく早く済ませてくれ」
「わかってるよ。じゃあ目をつぶってくれ、ニヒト」
ジーグはニヒトの名前の部分だけ、やけに優しく言う。それはニヒトに恋人同士の甘い囁きを一瞬だけ連想させ、ニヒトの気分を酷く害した。
程なくして、ニヒトの顎にジーグの手が伸ばされる。筋張ったそれに捕らわれるのも、もう何度目のことだろう。ニヒトはぎゅっと目をつぶり、ジーグからのキスをやり過ごした。
「ん」
「──はい、終わり。ありがとさん」
触れるだけの口付けだが、やはり男とするのは良い気はしない。ニヒトは口元を不愉快そうに拭うと、ジーグを見上げて問い掛けた。
「アンタの病気、いつになったら治るんだ」
「さあな。完治の方法は無いんじゃねーの」
「おい、アンタそれで良いのか。適当過ぎるだろ。この間だって、発作が起きて大変だったじゃないか」
「あん時は迷惑掛けて悪かった」
「そうじゃなくて、俺はアンタに自分の身を大切にしろ、って言いたいんだよ」
「ニヒトは優しいな」
ジーグは柔らかい口振りのわりに、自嘲めいた笑みを浮かべた。自らの命を盾にしてニヒトに付け入っていることが、後ろめたかったからだ。
今日はいつもより長く話し込んだ。それもニヒトがジーグの身を案じたからだったのだが、それが仇となってしまった。
「きゃあっ」
ニヒトの部屋から出たジーグは、不審な物音──無論、ジーグが入り込んだ時の足音──を聞きつけたニヒトの母親と鉢合わせしてしまった。
泥棒の侵入を予想していた彼女の片手には電話が握りしめられており、案の定ジーグは通報されてしまった。
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