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「──と、いうのが事の概要だ。今回君たちマスコミが調査しているのは、通報された坊やの掛かっていた『病気』のことだろう」
「はい。彼は『キスキス病』という奇病なのですよね」
「何でも、1日1回は誰かと口付けを交わさないと命を落とす病気なのだとか」
「恐ろしい病気だ……」
若い記者は、独り言のように呟いた。
ジーグとニヒトの騒動は、いったん警察は動いたものの、刑事にこってり絞られただけで何の罪にも問われなかった。しかしここで、ジーグが奇病を患っていることが世間に知れる。
この国で初めての患者だということもあり、俗世の話題を独占──という程でもないが、新聞の端に取り上げられる程度には関心を持たれていた。
「悪いがこれ以上は、おれの専門外だ。代わりと言ってはなんだが、説明してくれそうな医者を紹介してやろう」
「本当ですか」
「性格に難ありの男だが腕は悪くない。ほれ、名刺をやるよ。俺からの紹介だと言えば、取り合ってくれるだろう」
「恩に着ます、刑事」
記者は深々と頭を下げる。
刑事は少々大げさに感じたものの、悪い気はしなかった。礼儀正しい若者は嫌いではない。
年中温暖な気候のこの国であるが、今日は寒い日だった。寂れた公園には、記者と刑事しか居なかった。だからだろう、顔を上げて立ち去ろうとした彼の背中に、刑事は投げ掛けるように続けた。
「奴は自他共に認める節操無しだから、気をつけろよ」
君のように線の細い男は、と続けようかと思ったが、流石に失礼なので止めたらしい。記者はそんな彼の心配を知ってか知らずか、刑事の忠告に微笑を返した。
紹介して貰った医師は、記者が想像していたよりも若い男だった。自分と比べれば年上だが、刑事よりは年下だろう。
「刑事さんから話は聞いてるよ。例の奇病のことだろう」
「はい。僕もこの件で初めて耳にした病名ですし、解らないことだらけなのです」
記者は手帳を膝の上に握りしめ、医師の目を真っ直ぐに見て話をした。真面目なのは結構だが、視線に縛られるようで居心地が悪い。医師は目を反らし、話を続けた。
「奇病とはいえ『キスキス病』に関する研究は、他国でそこそこ進んでいる。これの患者は、キスをせずに24時間経つと唇がけいれんし、発作が起こり、死に至る。ただし発作の最中にキスをすれば命は助かる。残念ながら、特効薬は未だ無い」
「では、治療は不可能なのですか」
「いいや、完治の前例があるからね。恋人が出来た途端にケロリと治ってしまったのだとか」
そんなに簡単なものなのか、と記者は唖然としてしまった。
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